第16話 入学初日

 俺は今、なんだかんだ言って脅迫なしで入学をすることができたニーナと共に、リグニル学院へと向かっている

 合格者発表から1ヶ月、俺たちは一度実家に帰り、本格的な入学準備を整え、もうすでに寮に入って暮らしている。


「ラウル、昨日も気持ちよかったわね♪」


「いい加減黙れニーナ、そんなことを外でベラベラ喋るな」


「ふふっ、かわいい」


 はぁ…、そろそろニーナの誘惑にも逆らえるようにならないとな。


     

      ガラッ



 指定されていた教室のドアを開けると、すでに数人の人間が間隔を空けながら座って待機していた。


 お行儀よく、微動だにせずに座っている金髪の女。おそらく、あれが

 リゼ・ミラーだろう。


 他にも、俺が入学試験で倒した黒髪の女が机に突っ伏して爆睡していたり、

 ニーナに圧勝した男が眠そうにしていたり、試験前に貴族に絡まれていた不気味な平民が相変わらず不気味に、なんの感情も表さず座っていたりする。


 …おいニーナ、負けたのが嫌だったからってそんなに睨むんじゃない。


 席の座り方はおそらく自由なため、俺とニーナは一番奥にある席に座ることにした。


 しばらく待っていると、オドオドした平民が入ってきて、遠くで時間になったと知らせる鐘が鳴った。


 その鐘の音と同時に黒髪の女教師が入ってきた。


「よし、集まったな……1人足りないな」


 ふむ、言われてみればそうだな。


 そう思っていると、


    ドゴォォォン!!


 という音ともに、ついさっき教師が入ってきたばかりのドアが壊された。


 ……敵襲か?


 あの化け物の一件から油断しないように生きてきた俺は、いつでも対応できるように、即座に魔法を構築する。


 しばらく警戒していたが、崩壊した扉から入ってきたのは、試験会場にもいた、大剣使いの男だった。


「初日からの遅刻に加えての学院の所有する建築物の破壊とは…いい度胸だな、ゼノス・ブレイド」


「あぁん?」


 ゼノス・ブレイドとは…確か入学試験の結果は3位だったな。

 それにしてもブレイド家とは…またとんでもない家系だな。


 ブレイド家とは、人類最強の戦闘一族と呼ばれ、恐れられている貴族だ。昔は各地を転々と巡り、依頼を受け、生計を立てていたらしいが、今現在は俺の所属するノブリス王国と敵対関係にあるカヤル王国の騎士団長を代々務めているらしい。


 代々強力な身体魔法と剣術を受け継いできているらしい。

 ……それならば入学試験でのあの強さも納得だな。


 さて、そんなことは置いといて……なんであいつはあんなにも不機嫌なんだ?


「うるせぇんだよクソ教師風情が。俺のことは無視でいい。続けとけ。」


「……はぁ、まぁいい。」


 女教師はとりあえず説明をしていくことにしたらしい。


「いいかお前ら、事前情報である程度は知っているとは思うが、この学校は完全なる実力主義だ。例えば……そうだな、入学試験の結果で順位が決まっていただろう。あの順位が入学初日の今日から適用される。あの順位が高いものほどこの学校においては優遇される」


「あぁん?じゃあこの俺が3位だっていうのか?」


 ブレイド家のものが不満を持ったように発言する。


「その通りだ。確かに、お前のように、あの結果に不満をもつものもいるだろう。…まぁ安心しろ。あの順位は暫定でしかない。この学院には『序列戦』というシステムがある。これは下位順位の者が上位のものに決闘を申し込める、というものだ。今現在は2年生から4年生までの順位が決まっていて、お前ら1年生は当然、一番下の順位に位置している。」


 ふむ、面白いシステムだな。つまり1学年の人数は9人なわけだから、一年生で一位の俺は──28位ということか。


 ふむ、これはいくら制度といえど屈辱的だな。


「あの、先生、私の順位も戦闘能力で決められるんですか?」


 エルフの王女であるリゼ・ミラーが発言する。


「ん?あぁ、そういえば今年は学者部門からの入学者がいたんだったな。ここ2年の間は合格者がいなかったから忘れていた。そうだな、リゼ・ミラー、お前のいうことは確かだな。安心しろ、学者枠の順位は合ってないようなものだ。だが、順位を上げておきたいというのなら、魔道具や論文を自主制作して、定められた教師に提出すればその評価によって順位は上がるぞ」


「なるほど、ありがとうございます」


「あぁそういえば、最近はこのシステムは使われていなかったため忘れていたが、学者の者は自作の魔法具を制限の中でなら持ち込んで、決闘することができるぞ。まあその条件は他の者も同じだから、あまりお勧めはしないがな。」


 確かにな。魔法具ならよほどの物以外は脅威にならないし、ここにいるものの財力なら自分で購入することもできるからな。


「まあ、序列戦に関する主な説明としてはこれくらいだな。あとは授業に関する話だが────」


 そのあとは授業の取り方や他の細かい点での説明がされた。

 授業は好きな授業を選択するのも、受講しないで自分自身で鍛錬に励むでもいいらしい。……ただ、年の最後に行われるテストで点数を取らないと退学になるらしいが。

 これは予想外だがいい知らせだな。もう教わることもないし、しばらくはここの図書館の読破でも目標にしてみるか。


 こうして、入学初日は平和に幕を閉じた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る