第12話 入学試験

 予想外の学院長の挨拶とともに始まりを告げた入学試験は、特に異変が起こるわけでもなく、順調に進んでいった。


 基本的に決闘形式とは聞いていたが、流石にそんな時間はかけられないらしい。受験者は的に向かって全力の魔法を打ち、それを見た試験官がすぐにその場で合否を告げ、それで受験者が10分の1に絞られる。

 おそらく元々ある程度の基準が決まっているのだろう。


 その試験は俺もニーナもつつがなく終え、数十人にまで減った受験者たちは別の闘技場に連れて行かれ、説明を受けた。


「いいかお前ら、あの試験を突破した時点で、お前らは十分な素質を持っている。今からの試験で嫌な思いをしたくない奴は、その中途半端な自信を持ったままここを去ってもらって構わない…。だが!一皮剥けて先に行きたいというものはこのリングに立ち、そして戦え。」


 ざわざわと会場がざわつく。


「安心しろ。このリングは学院長お手製の特別なリングだから、中でいくら怪我をしても死ぬことはない。しかも、別に最後まで生き残らなくても、監視していた試験官によって合否が下されるため、順位などは特に関係はない。手を組むのも、裏切るのも自由。このリング上ではなんでもありだ。」


 ほう、なかなかに面白い。ルールもシンプルでわかりやすいな。


 その説明が終わるとともに、すべての受験者がステージに上がっていく。

 ステージは十分な広さがあり、全員が散らばった。まあ、同じ国同士で結託しているところもあるが。


「どうするニーナ、俺たちも手を組むか?」


「いいえ、結構よ。あなたの婚約者なんだもの。これくらいは余裕よ。」


「そうか」


 いいな、こいつがどのくらい強くなったかは俺もそこまでわからないし、お手並み拝見と行こうか。


「それでは、始めェェ!!」


 ようやく全員が準備万端になったところで、試験開始の合図が下される。


 ドォォォン!!


 開始とともにとてつもない爆発音が聞こえる。

 どうやら、さっき固まっていた集団に、1人が突っ込んだらしい。


「オラオラオラァァ!」


 突っ込んだ男はとてつもない身体能力で自信の身長にも届きうるほどの大剣を振り回している。大人数対1人の図で、圧倒的な力を見せつけている。


 ふむ、あの男、魔力量などは特筆すべきではないが、とてつもなく練度の高い身体強化魔法と持ち前の戦闘センスですべてを解決している。


「世の中にはこういう奴もいるのか……面白い」


 そう思って見学していると、あの戦いをきっかけとして、ところどころで争いが起こっている。


 向こうではニーナがいい相手を見つけたのか、早速戦いを仕掛けている。


 …ふむ、よほどのことがない限りニーナは負けないと踏んでいたが、ニーナが対戦しているあの男、なかなかの強者だな。

 魔力操作が美しく、魔力量も申し分ない。しかも……4属性持ちだな。

 他属性持ちは得てしてどの属性も中途半端になりがちだが、あの男は全てが洗練されている。

 これには流石のニーナも驚いたらしい。今の所両者は拮抗しているが、この後は一体どうなるかな。


 さて、そんなこんなで周囲を見ていると、こちらにも来客が来たようだ。


 ガキィィン!!


 ものすごい速度で向かってきた相手の武器と、俺の片手剣がぶつかりあう。


 あぁ、そういえば。

 あの化け物と戦った時、俺の中での課題が浮き彫りになった。

 魔法しか会得していなかった俺は、近接での戦闘において、あの化け物に大きなアドバンテージを取られていた。

 そこで俺は、剣術を極めることにした。元々剣術は貴族のたしなみのようなものだったため、特に周囲には何も言われることなく始めることができた。

 そんな俺は剣術の才能すらも持っていたらしく、すぐに基礎を終え、今ではもう王国でもトップレベルの実力へと達している。


 …しかしこの女、強いな。

 身体強化の熟練度がとてつもない。使っている武器も独特だ。これは確か極東の島国の「カタナ」とかいう武器だったと思うが。服装も独特だし、あの国のものなのかもな。

 …ふむ、閉鎖的なあの国の人間がこの大陸にいるとは。めずらしい。

 体の使い方などもこちら側とは違うようだし、せいぜい楽しませてもらうとしよう。


 女は四方八方から俺を切りつけようとするが、俺はそれを軽々と捌く。身体強化の熟練度や純粋な剣の技量では完敗だが、元々の男としての筋力と、魔力量でゴリ押ししている、という感じだ。


 このままでは負けはなくとも勝ちはない、と悟った女は一度距離をとった。


「いやはや、これほどに美しい剣術の使い手がいたとは。これは予想外。なかなかに楽しめそうだ」


「しかし女、珍しい武器を使うな。それは極東の「サムライ」とかいう奴らが愛用しているものものだと記憶しているが。」


「ほう、よく知っているな。そうだ。私は東の方の「ジパン」という国から来たものだ。」


「それはそうと、「サムライ」は奇襲などせず、切り掛かる前に名乗るものと聞くが…いいのか?」


「そんなことはどうでもいいだろう!!私はさっさと続きがしたくてたまんないんだ!!」


東雲旭しののめあさひ、いざ尋常に勝負!!」




 いや名乗るんかい。







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る