第11話 5年後

 あの化け物との邂逅かいこうから5年の月日が経過した。

 あのあと、目を覚ました俺は、あの化け物が残していった被害の処理を手伝った。その爪痕は意外にも大きく、一つの都市が壊滅した。数千人近くの死者が出ており、その化け物を退かせた俺は、その功績をたたえられ、大陸中に名が広まることとなった。


 あれから俺とニーナはお互いに合う機会を減らし、ただ、ひたすらに研鑽けんさんを重ね、圧倒的に強くなり、世界でも有数の魔法使いになった。

 そして15歳になった俺たちは、今現在、一緒の馬車に乗り、リグニル学院へと向かっていた。


「ねぇラウル、そろそろ私を抱いてよ。私頑張ったよ?こんなに強くなって、そりゃあ、ラウルには勝てないけど、ふさわしい女になったと思うよ?」


「ウルセェ。そういう問題じゃねぇんだ。」


 最近の困り事といえば、こうやってニーナが誘惑してくるくらいだろうか。

 …こいつ、容姿だけは抜群にいいからな。学院は完全寮制だし、丸々3年間も耐えられるかだけが唯一の不安要素だ。


 もう一度説明しておくと、この学院は大陸において一番と言われる学院であり、その理由としては、この学院の在り方が人種差別や貴族優遇などが一切ない、完全なる実力主義だからだ。


 そのため、各国からさまざまな種族が集まる。それでもこの学院をきっかけとして争いが起きないのは、この学院が中立都市であるキースにあるからだ。


 最新の設備や優秀な教師が集まるこの学園には、当然何百人もの入学志望者が集まるが、例年、その中でも合格するのはほんの数名だけだ。


 そのため、この学院を卒業したというだけで一目おかれ、歴代卒業生である魔法使いや剣士、学者たちなどは、いずれも後世に名をのこすほどの活躍をしている。


 まあ最難関などと謳ってはいるが、俺にとってはたいした壁にもならないだろう。堂々と構えていれば全てうまくいくってもんだ。


「ラウルぅ、私、緊張してきたー」


 そういってニーナが俺の腕にもたれかかってくるが、どうせ嘘だろう。

 俺は無言で振り払った。


「お前は十分に努力をしただろう。思ってもないことを言うな。」


「まぁね。あなたの婚約者である以上、恥はかかせられないし。」


「わかってるならいいさ。」


 そんなこんなで話をしているうちに、馬車が止まり、御者が到着を知らせにきた。


 馬車を降りるとともに、俺たちの目には壮大なる建物が映る。

 その気になれば一学年数千人は入れるんじゃないだろうかという建物に、圧倒的に大きな、今回の試験会場でもある闘技場。たった数十人の生徒にこれだけの施設があるのだから、この学園の力がよくわかる。


 俺たちが正門を通ろうとすると同時に、ある声が耳に届く。


「おいっ、何みすぼらしい平民程度がここに入ろうとしてるんだ。ここに入学できるのは、僕みたいな2属性の選ばれた人間だけなんだぞ!」

 

 太った青年が叫ぶ。


 …は?


 何をあの豚はほざいているのだろうか。この学院の実力主義を知らないのか?

 そもそも、2属性という才能に甘えていて入学できるほど、この学院は甘くない。


「はぁ」


 俺はため息をつき、豚の元へと歩いていく。


「おい」


 肩に手をかけ、声をかける。


「あぁ!?僕はギル伯爵家の次男だぞ!!そこらの連中が触れていいよ…う…な…」


 俺の顔を見ると同時に、顔が青白く染まっていく。


「こ、こ、ここれはラウル・ローレン様ッ、お、お目を汚して、ま、誠に、申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」


 そう叫び、名も知らぬ豚は走り去っていった。


「はぁ、なんだったんだ全く」


「あれは我が王国の貴族ね。何回かパーティーに出席していたけれど…もしかして覚えてないの?」


 ニーナが信じられないものを見るような目で見つめてくる。


「はぁ、あんな小物、覚える価値もないだろう」


 いや、ほんとに。


 …それにしてもこの平民、さっきから無表情でたたずんで、不気味なやつだな。


「…ありがとうございました」


 それだけいって、不気味な少年は去っていく。


「なんだあいつ、不気味だな」

「そうね…急いでるのかしら」


 いや、それはないだろう。


 それにしても、周りはそれどころではないらしい。

 俺たちの喧騒には目もくれず、全員がすでに集中している。


 俺は軽く周囲の魔力を探ってみるが…ふむ、なかなかどうして、やはり最難関の学院に受験しにくる生徒だからか、全員が優秀だ。


 この学校は、先ほども言ったが完全実力主義なため、試験内容も他の受験生と決闘を行い、魔力量をはかり、軽い面接を行うというものだ。なんで決闘だけじゃないかというと、おそらく伸びしろとか、そういうところも気にしてるんだろう。

 あ、もちろん学者を目指す奴らは他の試験があるぞ。



 そんなこんなで試験会場には多くの人が集まり、予定されていた開始の時刻となった。

 すると突然、何もなかった試験会場にはいくつかのリングができ、そして上空に1人の魔法使いが現れ、何かの魔法を使っているのか、やけに響く声で喋り始めた。


『集まってくれた諸君、まずは、我がリグニル学院を志望してくれたこと、誠に感謝する。皆も知っての通り、この学院は完全なる実力制、入学も困難を極める。だが───入学を果たしたものたちには、一切の損をさせないと、この学院の長である私、リーグ・キーエンの名にかけ、ここに誓おう』


 その言葉とともに、目視できるほどに濃密に凝縮された魔力が、会場中に降り注ぐ。




 さあ───試験の始まりだ。



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