第10話 目覚め
…知らない天井だ。
あの化け物と戦ってから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。
どうやら俺は一命を取り留めたらしい。この肌を掠める風の感触も、鼻をくすぐる春の香りも生きていなければ味わえなかっただろう。
俺が上半身を起こすと、伸ばしていた足の上にはニーナが頭をのせ、寝ていた。
「んんーー」
軽く伸びをすると、枕として使っていた足が揺れたらしいニーナは目覚めると、ニーナを見つめている俺と目があい、バッ、と顔を上げる。
「ラ、ラウル〜」
ニーナは、泣きじゃくりながら、俺にものすごいスピード抱きついてくる。
思わぬ衝撃にまだダメージが残っていた俺は顔を
正面に顔が来たニーナは、その美貌を歪め、今も泣いている。
「どうしたんだ、そんなに泣いて」
「だ、だって、もう死んじゃうと思ってたから…」
はぁ、ほんとに何を言ってるんだろうかこいつは。
「いいかニーナ、俺は絶対に死なない。俺の婚約者を名乗るなら、そのくらいは知っておけ。」
「ゔんっっ」
仮にも俺の婚約者となった女がこんな考えだと不愉快だ。
しかし、あの化け物に俺が負けたのも事実だ。
だが、今回の戦いで、得るものはあった。俺は魔力の本質に触れた。あの感覚を忘れる前にもう一度、1から魔法の訓練をしたい。
しかし、あの時の化け物は一体なんだったんだ…?
戦闘時、俺はあいつを魔力のみで構成された知的生命体だと考察したが、それは本当に正しいのだろうか。そもそも実現可能なのだろうか。エネルギー単体で意思を持ち、戦い、逃げる判断までを独立でするなんて…。
あんなのが自然に発生するなんて人が発動させた完全に独立した魔法と言われた方が納得ができるが、それこそもはや神の領域だろう。
あいつの魔力には属性がなかったし、知性もあるにはあるがそこまで発達しておらず、まだ本能に任せているような印象だった。
仮に今後もあのままならば、数年後には脅威ではなくなっているだろうが…
何か、この体が警報を鳴らしている。
今思えば、殴り合った時に触れたあいつの魔力は少し歪なものだったかもしれない気がしないわけでもないが…
まあ、そんなに深く考えても意味ないだろう。
俺の当面の目標は、あの化け物を圧倒するほどの力を身につけることだ。
思いついた案もいくつかあるし、まずはそれを実践してみることにしよう。
ニーナ視点
本当に良かった…。
ラウルを本当に失いかけて、やはり私はもはやラウルがいないといけない体になってしまったのだと気づいた。
ラウルがいなくなって、心が無になった気がして、何も無くなった気がして、手から全てがなくなった気がして…本当に死にたくなった。
もうこんな思いはしたくない。
強くなろう。
そう思った。ラウルが何もしなくてもいいくらいに。私1人で全てが解決できるように。
こんなことを言ったらプライドが高いラウルは怒るだろうけどね。
でも、もう目の前で大切な人──まあラウルだけだけど──を失うのは嫌だから。幸い私には才能があるし、恵まれた環境もある。どうか、リグニル学院に入学するまでは…。
こうして、私は努力することを決意した。
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