第9話 ニーナ視点

 ──深い絶望を味わった──


 6歳の頃、一目惚れをし、一瞬で依存ともいうべきほどの想いを抱いてしまったラウルと、うまい具合に婚約者としての関係まで発展させられた私は、幸せの絶頂にいた。ラウルは、私を両親の言いなりの人生

 最初の方は文通だったが、毎回手紙を送るたびに紙何十枚もする量の手紙を送りつけた。


 しばらくしてお互いに状況が落ち着き、週に一回会えるようになり、話していると、ラウルが私の手紙の内容を覚えていてくれているとわかり、とても嬉しく思った。 

 

 しかし、しばらくすると、ラウルの目には私が写っていなかったことに気がついてしまった。

 なんとか私という存在を意識させようと、見た目に気を遣ったり、喋り方に気をつけたり、ラウルの好きそうな知識を身につけるなどして、やっと、少しラウルが私のことを見てくれるようになった頃──あの化け物によって、全てが崩壊した。


 その日もいつも通り、私が主に喋って、ラウルが相槌を打って、という感じで喋っていたのだが、突然──化け物が落ちてきた。


 その化け物を見た途端とたん、私や周りの警備兵たちは本能から恐怖を感じ、腰を抜かしていたが、その中でも、ラウルだけは立ち向かった。


 そこからは、まさに次元が違うとでも言えるような戦いで、ラウルは傷だらけになりながらも戦い続けた。


 その戦いの最中、ラウルは───笑っていた。

 あのいくら私が話しても笑わないラウルが、誰に対しても無表情で接してきたラウルが、笑ったのである。


 私は化け物に、深い嫉妬を覚えた。この私は見てもらうのにさえ数年の時を要したというのに、この化け物は、たったの数秒で、ラウルの心を掴んだ。


 でも何よりも、愛した婚約者がボロボロになるのを見ていることしかできない自分自身に何よりも腹がたった。


 私にもっと力があれば、私にもっと勇気があれば、私に、もっと、もっと、もっとッッッ────


 止まることなく溢れる自責の念が、私の心を犯す。


 そんなことをしている間に、化け物は去り、今にも死んでしまいそうなラウルが降りてくる。

 私はいまだに震えが止まらない体を叩き起こし、ラウルの元に駆け寄る。

 気づけば瞳からは涙が溢れ、視界は滲み、泣いていた。


「回復」「回復」「回復」「回復」「回復」・・・・・・・・・・・・・・・


 目を閉じるラウルに回復魔法をかけ続けるが、効果はない。

 これほど過去の才能の上にあぐらをかいていた自分を恨んだことがあっただろうか。

 



 あまりの魔法の使いすぎに私は魔力が足らなくなり──倒れ込んだ。

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