第6話 対決

「ラウル・ローレン、私と勝負をしましょう。」

「…はい?」


 このアホ王女は何を抜かすのだろうか。俺にはそんなものを受けるメリットもないし、義務もない。こんな話、ただの時間の無駄だ。受けるわけがないだろう。


「これは命令よ。」

「…はい。」


 このクソ王女が。こうなれば怪我をさせない程度に心を折って、二度と俺に関われないようにしてやろう。


「それで王女殿下。勝負の形式はどうしますか?」

「もちろん、魔法での決闘よ。ルールは、コントロール形式でやりましょう。流石に私たちが怪我なんかしたら大問題だからね。先攻は私、後攻は貴方で行いましょう。」

「はぁ、わかりました。」


 …この王女、親の言いなり人形だと思っていたが、意外と面倒臭い性格か?

 まあいい。この勝負で完封すれば、こいつが関わってくることも無くなるだろう。


 決闘のコントロール形式とは、相手が魔法を打ち、それをもう片方がコントロールを奪うことができたら勝ち、と言ったルールだ。

 確かに、互いが怪我をしないような安全なルールだが、この形式には大きな欠点がある。

 それは、両者の間に歴然の差がないと、この形式では決着がつかないのである。おそらく相当自分に自信があって俺に挑んできたのであろうが、残念なことに、おそらくこいつでは俺に勝てないだろう。

 今もこいつの魔力の動きを見てみるが、確かに最低限はできているが、俺には遠く及ばない。

 まあ適当に勝って、今後関わってこないようにしよう。


「じゃあ、いくわよ。」


 そう言って王女様は水の塊を生成する。

 俺はその塊の魔力回路に侵入し、その塊を操作し、崩壊させる。


 いともあっけない勝負であった。拍子抜けした俺が王女様の方を見ると、王女は頬を紅潮こうちょうさせ、その場に座り込み、息を荒くしている。

  

「ハァ、ハァ、これよ、この感覚よ…」


 …は?

 俺が訳もわからずその光景を眺めていると、落ち着きを取り戻したらしい王女様は、ゆっくりと立ち上がり、近づいてきて、俺の右腕に抱きつきこう言った。


「ラウル・ローレン、私と婚約しなさい。」

「…はい?」


 ほんとに何言ってんだこのバカ女。

 今日の俺はこいつに振り回されてばかりだ。

 だが、今のこいつは本当に何を言っているんだろうか。


「何故、でしょうか。」

「あなたに惚れたからよ?」


 はぁぁぁぁ?いや、意味がわからない。なんなんだ?全くもって脈略がない。普段は優秀な俺の頭脳も今だけは思考を拒否している。

 その結果、俺の頭脳が選んだ選択肢は…


「今は、とりあえず置いといて、後から話しましょう」


 徹底的な逃げである。


「えぇ」


 と、とりあえずは助かったぁ…。

 さて、どうやって逃げようか…。


「じゃあ、私は先に戻っておくわね。一緒に行くと怪しまれるから、あなたは後から来なさい。」

「あ、はい。」


 ふぅぅぅぅ、やっと一休みできる…。


 そう思った俺は地面にへたり込む。


 今日は散々な1日だった。とりあえず暖かい風呂とふかふかのベッドで休もう。



 …そう思っていた時期が俺にもありました。


「なんでだよぉぉぉ!」


 悲痛な叫びが屋敷中にこだまする。

 な、なんでこんなことに…



 ──────────────────



 しばらく休んで俺が屋敷に戻ると、残った貴族の数は少なくなり、残りもそろそろ帰るというような時間帯になっていた。


 俺が会場に姿を現すと、それに気づいた父親が歩み寄ってきた。


「どこにいっていたんだラウル。心配したじゃないか。」

「ごめん父上。少し夜風に当たっていたんだ。」


 なんだか妙に機嫌がいいな…。

 なんかあったか?


 俺がそう思っていると、父上の後ろから王女様とこの国の今の統治者である国王様が歩いてきた。


 …ん?


 何か嫌な予感がしてきた俺はつい後ずさる。


 そんな中、笑顔で父親が口を開く。


「ラウル、今さっき、お前とニーナ殿下の婚約が決定したぞ!」


 いやなんでだよ!婚約ってのは普通何日もかかって行われるものだろう!?それがなんでほんの数時間で実現してるんだよ!


 思わず頭を抱えた俺が顔をあげると、ニコニコと満面の笑みを浮かべた王女と目が合った。


 …こいつが原因か。

 もういいや、流れに身を任せよう。


「なんだラウル君。ニーナとの婚約が嫌なのか?」

 国王が言う。

「いえいえ、大変光栄でございます。」


 危なかった…。この娘大好き国王が。お宅のニーナはとんでもないやつだぞ…。


「ふむ、それはよかった。」

「では国王陛下、この話はまた後日。」

「うむ。」


 そう言って2人は去っていった。


 …まじでどうしよう。


 そんなこんなで、俺の最悪な誕生日は終わりを告げた。


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