第4話 ラウル・ローレン視点

 リグニル暦204年3月4日


 ラウル・ローレン視点


 物心ついた頃から周りには天才と持て囃されていた。

 実際そうだったのだと思う。

 

 生まれた時には余りにも多い俺の魔力の総量で近くの海が割れたらしい。

 生まれた時に測定される、魔力の性質─つまり属性は世にも珍しく強力な『重力魔法』だった。

 加えて小さい頃から思考が大人びた子供だったため、すぐに俺の名は王国中に広まった。


 ローレン公爵家全体が俺という才能に歓喜した。家の地位の向上にもつながるし、それによって王国内での立場が強くなるからだ。

 

 そして、今日はそんな俺の6歳の誕生日パーティーだ。

 当然、俺という天才を見ようと王国中から貴族があつまり、その分豪華なものになっている。

 この日までに魔力操作を上達させ、基本となる重力魔法もマスターした。

  

 そんな俺は今日のパーティーの主役であり、家の立場もあり、今やもう1人と並んだ王国一の天才と呼ばれている俺の元には、当然多くの婚約の申し込みがくる。

 だがまあ、やって来る令嬢達も親の言いなりで来ている奴ばかりで、正直に言ってつまらない。

 

 ようやく全ての申し込みを断り終わった俺は会場の隅に行き、一息をついた。

 

 他人の顔色を常に伺い、偽りの表情ばかりがあった会場に嫌気がさした俺はパーティーを抜け出し、この家の裏庭へと向かう。


「よし、ここなら誰もいないだろう。」


 やっと他人の目を気にしなくてよくなった俺はまず、毎日習慣としている座禅ざぜんを組み、目を閉じ、意識を体内に向ける。


 人間の魔力量は生まれた時点で決まっている、と基本的には言われている。俺は魔力が莫大ばくだいすぎるため、当時は測定不能であった。

 しかし、魔力が多いということは操作が難しいことでもある。そのため、いくら天才と呼ばれていた俺でも魔力操作をマスターするにはそこそこの苦労をした。


 だが今となっては魔力操作も国内でも有数の技量となり、固有魔法の『重力魔法』の基礎もマスターした。

 だがそれでも基礎は忘れてはいけないということで、今でも体内に意識をむけ、自分の魔力と向き合うことは日課として続けている。


 


 しばらくすると座禅を解き、重力魔法の訓練に移る。


 その前に、まず、重力魔法とはなんなのか、ということについて軽く説明しておこうと思う。


 重力魔法とはその名の通り重力を操る魔法である。

 効果としては非常に単純であり強力なのだが、その分魔力の消費量が激しい上に、コントロールがとても困難とされている魔法だ。

 だがそんなことは俺には関係なく、稀代の天才である俺は今の6歳の時点で既存の書物に記録されていた重力魔法を使えるようになってしまった。

 残るは逸話などに出てくる伝説級の重力魔法だが、それらも大体のやり方はわかっている。

 そもそも俺が天才と言われている所以は、膨大な魔力や強力な固有魔法もそうだが、それ以前に、この圧倒的な頭脳である。魔法の使い方や、どういう時、どこでどうやって魔力を使えばいいのかをも完璧に理解しており、そんな俺だからこそ、この魔法との相性が抜群なのである。

 

 過去にも何人かの重力魔法使いがいたというのは記録に残っているが、どの魔法使いもこの魔法をうまく制御することができずに、最後には魔力の不足や暴走などが原因で死に至っているケースが多い。


 まあ俺の場合は例外で、暴走の方はまだしも、不足という点については圧倒的な魔力量によりそんな心配は皆無なのだが。


 さて、説明はこのくらいにしてそろそろ訓練の方に移ろう。


 そう思い、魔力の操作を始めようとすると、裏庭の入り口の方から足音が聞こえた。魔力の操作を中断し、しばらくそちらの方を見ていると、足音と共に、驚きの人物がやってきた。


 さっき会場内で挨拶をした、この国の王族であり、世間では俺と同程度の天才と認知されている、第一王女様である。その才能に加え、美しい白髪を持ち、また、透き通るほどに透明な瞳は、こちらの全てを見透かしてきているようにも思える。


 …正直、この王女に俺はあまりいい印象を持っていない。

 その顔には感情が浮かぶことがないことから、王国内では「氷姫」などという異名があるが、俺も同様に不気味に思っている。

 いざ対面してみても、何を考えているかが全くわからない。その表情が少しでも動いたことがあるのだろうか。


 そんな王女様だが、俺が王族に仕えている貴族であるという立場上、礼を失してしまうということは絶対にあってはならないため、嫌々ながらも俺は挨拶をする。


「こんばんわ、王女殿下」

「えぇ」


 …しばらくの間、なんとも言えない沈黙の時間が流れる。


「…なぜここに?」

「少し休みたくてね」


 …この王女、全然会話を続ける気がねぇ…。

 つい気まずくなった俺が裏庭を抜け出し、会場に戻ろうとすると、


「魔法の練習をしていたんでしょう?私のことは気にせず続けなさい。」


 などと言いやがった。王族の言葉には逆らえないため、俺は渋々と魔法の練習を続けることにした。



 しばらくすると、王女がとんでもない提案をしてきた。


「ラウル・ローレン、私と勝負をしましょう。」

「…はい?」





 その数十分後である。上機嫌で俺の腕に抱きつく王女が発見されたのは。



 



 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る