第2話 4人の死

 ー現代日本ー


 神楽瑞稀かぐらみずき視点


「いってらっしゃいませ。お嬢様。」

「ええ、いってくるわ。」


 その日も、いつも通りの挨拶を交わし、いつも通りの1日が始まると思っていた。


 その日はたまたま部活動の時間が長引き、学校を出る頃には、真っ暗闇の夜の8時となっていた。

 迎えにきてもらおうと運転手に電話をかけるも、電源でも切っているのか応答はない。


「おかしいわね。」


 まあたまには悪くないか、と思い、その日は歩きで帰ることにした。


 しばらく歩いて、角を曲がると、


 グサッ、グサッ


 というなんとも形容しがたい、しかし明らかに日常では聞くはずのないような音が耳に届いた。音のする方向を見てみると、全身を黒の洋服で身を包んだ男が血まみれの包丁を持ち、すでに死んでいるのであろう男の上にまたがっていた。


 私はその光景をしばらく見つめて、やっと人が刺殺されているのだという状況を把握した。


「ヒッ」


 人が死んでいると理解し、思わず声をあげてしまった私に気づいたのか、殺人犯は私の方を見た。

 向こうも衝動的にやってしまったのだろうか。完全に表情がおかしくなっていた殺人犯は、一直線に私の方へと向かってくる。

 思わず怖くなった私は、元来た方向へ、カバンを投げ捨て走り出した。

 現場を見られたと理解したのであろう殺人犯も、決死の表情で追ってくる。男と女ということもあるのだろう、差は縮まる一方で、簡単に私は追いつかれ、そして──刺された。

 思わずその場に倒れ込む。


 倒れ込んだ私の上に殺人犯はまたがり、快楽を浮かべたような表情で私のことを滅多刺しにした。


 走馬灯のようなものが頭によぎる。


 あぁ、裕福な家庭に生まれたはいいものの、親の言う通りに生き、自分を貫いたことなど一度もないような──つまらない、人生だった。


 こうして、私、神楽瑞稀かぐらみずきは、死んだ。




 神宮寺創じんぐうじそう視点

 

 突然だが、学校なんてものは無くなってしまえばいいんだと思う。

 

 俺は自分で言うのも何だが…いわゆる天才だ。

 今まさに憂鬱ゆううつになりながら通っている日本一と言われている進学校にも誇張ではなく大した努力もせずに首席合格してしまったし、入学後も一位を取り続けている。 

 学校なんてものはいかなくても何の問題も生じない。だから…


       ゲームが、やりたいんだ

 

 まあ、そんなしょうもないことを言ったって変わらないから今もこうして学校に通っている訳だが。


 そんなことをぶつぶつと言いながらいつも通りの駅のホームに立った。

 月曜日ということもあって、周りの人達の顔も何だかしけて見える。

 空を見上げてみると、雨が降っている。…太陽様ですら出勤を拒まれているようだ。

 やはり誰も通勤や通学なんて望んでいないのだろう。


 なんてくだらないことを考えつつも、列の最前でスマホを弄りながら電車を待つ。

 

 数分経つと電車がやってきた。よくよく見てみると、俺たちを地獄へと運ぶ悪魔の乗り物に見えてきた。

 そんなこんなでぼーっとしながら速度を緩める電車を眺めていると、


 キャーーーッッッッ!!!


 と言う甲高い悲鳴が聞こえた。一体何なんだと思って声のした方向へと顔を向けてみると、マスクをつけてフードを被った、おそらくは男であろう人物がこちら側に走ってきている。手にはブランドものらしき鞄があり、先ほどの悲鳴はこの男が原因なのだろう。


 

 …ところで、俺はこの男の進路をふさいでいるのだが、この男はどうするつもりなのだろう。


「邪魔だ!!」


 そう言って男は俺のことを突き飛ばした。


 …しかも、電車側に。


 あー…死んだな、これ


 なぜだか何の動揺もなくそう思えた。


 そんな間にも電車は迫ってくる。

 今から生き残る方法などないだろう。

 大人しく、せめてでも楽に死ねるような体勢を取り…


 俺、神宮寺創じんぐうじそうは、死んだ。


 


 天王寺翔てんのうじかける視点


 3歳の頃に、両親が自殺した。

 原因は親父が勤めていた会社の金を持ち逃げしたから…とか、そんな感じだったと思う。多分。


 どうでもよくて忘れちまった。


 まあ、3歳のガキを1人にするわけにはいかないから、親族が引き取ってくれたが。


 全員死んだけどな。



 特に俺は何もしていないのに、なぜか俺を引き取った人間たちは、次々と命を絶っていった。

 そんな俺は他の連中から見ると気味が悪かったらしく、ついに引き取り手がいなくなり、11歳と言う若さで俺は孤児になった。

 裏路地に潜み、物を盗み、食い繋ぎ、時には大人をもぶっ倒してきた俺の唯一と言ってもいい娯楽は……いつしか喧嘩となっていた。

 

 そんな俺は、今はドデカイ暴走族の族長になった。

 仲間が言うには、どうやら俺にはカリスマ性?とか言うのがあったらしい。

 それに加えて喧嘩の才能まであった俺が族長になるのは、考えてみれば当然だったのかもしれない。

 仲間も俺と同じ親に捨てられたとかの社会からのはぐれもので、夜な夜な共に他の暴走族どもと喧嘩をしていると、いつしか一帯に敵はいなくなっていた。


 そんなこんなで珍しく1人で過ごしていたある日、来訪者がやってきた。


 バァン!!


 隠れ家のドアを蹴破り入ってきたその男の手には……銃があった。


「…は?」


 男は何も言うことはなく、ただ銃を乱射した。


 こうして俺、天王寺翔てんのうじかけるは唐突に、なんの前兆もなく、ただただ、あっけなく、死んだ。




 東雲旭しののめあさひ視点


 …物心がついた時にはもう竹刀を握っていた。

 祖父が日本でも有数の剣道の達人であったことや、後は家柄もあったと思う。

 

 周りの女の子が可愛い服や靴、ぬいぐるみに興味を示し、友達と公園で遊んでいたころ、私は道着を身につけ、祖父が所有していた剣道場で祖父と二人きり、黙々と剣を振っていた。

 

 どうやら私には剣の才能があったらしく、小学校の頃からは常に一番を取り続けた。

 一番を取れば祖父や両親が喜んでくれたし、私も剣に魅せられていたから、熱心に剣を振り続けた。


 高校は強豪校と言われる共学の学校に入学した。

 

 そこでも私は一番だった。剣の美しさに魅入られ、ただ剣の道を極めようと剣を振り続けた。


 また、私は比較的容姿が優れていたらしく、多数の男子から告白された。

 剣の道の邪魔になると思い全て断ったが、それが他の女子には屈辱的であったらしく、いじめとまではいかずとも、多少の不興を買ってしまった。

 

 まあどうでも良かったのだが。


 ある日、私はいつもの通り1人で帰路についていた。

 

 最近、剣の上達が目に見えてなくなってきている。

 この歳になると身体に女性的特徴がいやでも出てくる。隣の道場で練習している男子達に身長はもちろん、筋力などでもどうしても勝つことができない。


 はぁ…、とため息をつく。

 ここらが女の身体の限界なのだろうか、と。


 そんなこんなで歩いていると、


 ぶおおおおん、と言う音と共に曲がり角からトラックが出てきた。

 運転手はどうやら居眠りをしているように見える。


 人間が生身のトラックに耐えられるはずもなく…


 私、東雲旭しののめあさひは、死んだ。




 こうして日本から4人の少年・少女が同時刻に、亡くなったのである。


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