なんか異世界無双の筈なのに混じっていた天才

コーク

第1話 プロローグ

 ──ある剣と魔法の世界の話──

 

 その日、世界中に震撼しんかんが走った。昼であるにもかかわらず空は夜のように真っ暗になり、ある地域では何の前触れもなく大地震が起こり、またある所では海が割れたと言う。

 この僅か数時間ほどで起きた大災害は、世界の危機だったとしてあらゆる書物に書き残されることになる……。


 リグニル暦198年3月4日06:00 

 ──ある辺境の島にて──

 

 その島ではいつも通り強大な力を持つ魔物達が徘徊していた。

 そこは如何なる種族も足を踏み入れようとせず、常に空は曇天に覆われ、大陸側に住む人族やエルフ族たちには「魔境」と呼ばれるような島であった。


 その日も強大な魔物2匹が縄張りを巡って争いを起こしていた。片方の魔物は全長数十メートルもある巨体で空を飛び、炎を吐き、すでに燃え盛った周囲の温度は数百度に達していた。

 もう一方の魔物はいわゆる「巨人」と呼ばれるような本来は物語でしか出てこないような風貌ふうぼうであり、手は四本、目は3つの化け物であり、また、身長が十数メートルに達している巨体にもかかわらず、俊敏な動きで相手を翻弄し、両者ともに一歩も引かない一進一退の攻防を繰り広げていた。


 そんな両者の間に突如、ドス黒い魔力の奔流ができた。突然の事態に争っていた2匹は立ち止まり、その魔力の渦を観察する。

 そして数秒ほどたつと、魔力は少々歪な人型の形を成し、固まった。


 二体の魔物は突如現れた自分よりも矮小であろう存在に吠え、片方は森を燃やし尽くすほどの炎を、片方は山をも砕けるであろうパンチを繰り出した。

 しかし、突如現れた生物から出た黒い魔力は炎と拳を受け止め、さらには覆っていき、果てには二体の魔物までを覆い尽くし、飲み込んだ。

 しばらくすると、捕食を終えたらしき生物は何も発することなく、無言で荒野の先へと歩いて去って行った……。



 


 3月4日08:45 

 ──あるエルフの王国にて──

 

 ここは広大な森の中心に位置するエルフの王国、ジーニ。

 

 古代の時代から聖樹を中心として栄えてきたこの国は、魔法に優れ、長寿な種族であるエルフが住み、統治してきた。

 少ない人数ながらも圧倒的な個の力によって栄華を極めてきたこの国は、近年、王国を支える聖樹の聖なる魔力が不足するという危機に陥っていた。


 そんな中、長年この国を治めてきた王家であるミラー家にて、ある女の子が生まれ落ちた。


 「オギャーーー!オギャーーー!」

 「よしよーし、元気な子ねぇ」


 泣き喚く赤ん坊を、母親である女性が優しく撫で、あやしていると、


 バンッッ!


 ドアが壊れるのではないかとあるほどの音と共に、侍女が息を切りながら入ってきて、ある報告をした。


「ハァ、ハァ、お、女王殿下、お、王の玉座が、一瞬ではありますが……光を取り戻しました!!」


「な…!」


 思いもしない報告に呆然としてしまった女王は、不覚にも赤子を落としかけた。

 そのことから、この事態の、異常性が窺えるだろう。


 この国の『王』というものは特別な意味を持ち、王の玉座に座ることができるのは聖樹に認められたもののみなのだ。決められた血筋、誠実さ、実力、全てを兼ね備えたもののみがその玉座に座ることを許されるのである。


 そして、聖者と連動しているその玉座が光ったということは、わずかではあるが聖樹が力を取り戻したということを意味する。


「王の玉座の周囲に虹色の魔力が突如現れ、輝きを取り戻したとのことです!」


 そんな侍女の詳細を知らせる報告にも、女王は変わらず呆然とした顔で手元の赤子を見つめる。


「まさか…この子が……?」


「バ、バブー!」


 赤子は引き攣ったように見える笑顔で手を伸ばしていた───。





 1人目である。




 3月4日10:37 

 ──ノブリス王国ディアス辺境伯家領地にて──


 カヤル王国と人間の2大王国として対をなすノブリス王国内のディアス辺境伯領地。


 大地が──揺れた。

 

 おそらく、なんの前触れもなく周囲にたちこめた異常なほどに濃密な魔力が大地にも影響を及ぼしたのだろう。


 一瞬であったために被害はそこまでの規模になることはなかったが、当然、ディアス家内は大騒ぎである。

 

 ディアス家内の一つの部屋にて、当主らしき豪華な服を着用し、髭をたっぷりと蓄えた男は、妻がたった今産み落とした、今もなお強烈な魔力を放っている、1人の男児を凝視している。


「今の大地震は、この子の異常な魔力が原因…なのか……!?」


 子供は無表情で、上を見つめている。


 しばらくすると男児の魔力は落ち着きを取り戻し、溢れ出ていた膨大な魔力は男児の中へと戻っていった……。





 2人目である。




 3月4日 10:38 

 ──ブレイド侯爵家内にて──


 ノブリス王国において、代々騎士団長を輩出している剣の名家ブレイド侯爵家にも1人、後に「剣鬼」と呼ばれ恐れられる、魔力ではなく剣技の才能を持ったものが生まれていた。


 属性などは持って生まれていないが、その代わりに非常に恵まれた肉体と、それに加えた圧倒的な身体強化への適性を持っており、剣を握るために生を受けてきたのは確実であった。


 それに加え鑑定を行うと、ブレイド家相伝の、特別な身体強化魔法を扱えることが判明した。


 近年はヘルン侯爵家による一族相伝の身体強化魔法を扱えるものが生まれてこず、没落していく傾向にあったブレイド侯爵家にとって、この子供は神からの賜り物に見えたものだろう。


 父親でもあるブレイド侯爵家の当主は、この天才を、一族の運命を賭して育てると決意した──。





 3人目である


 3月4日 11:29 

 ──とある東国の島国にて──


 大陸の東方に位置する島国、ジパン。

 

 大陸に住む人々からは「東の辺境」とも揶揄されるこの国は、古来より独特な形状をした武具や武術を扱う、それぞれが一騎当千の実力を持つとされる「サムライ」と呼ばれる武芸者達を中心に大陸国家の侵略を退けてきていたという。


 今では大陸国家とも和解し、一部の国とは交流を持っている。


 数千年もの昔より血を途絶えさせてこなかったある一族の統治の元続いてきており、その一族の正体を知るものはごく一部の側近のみである。


 その側近の元に、1人の天才が生まれ落ちた。


 その子供は、基本的に男が優遇される侍の一族に女という身で生まれながらも圧倒的な才能を持ち、成長してからは周囲の人間にも『侍』として認めさせていくことになる……。

 

 


 これで、4人


 以上、この4人、聖なる魔力を操る者、空間をも操る者、全ての敵を圧倒的腕力で破壊する者、万物を一刀の元に切り捨てる者。


 この4人の天才ともう2人が邂逅した時、物語の歯車は回り出す。

 



 








 



 


 

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