正義040・残り香

「ふぅ。正義執行完了!!」

「ジャス!!」


 混成体キメラの討伐後。


 元の姿に戻ったエスとジャスティス1号はコツンと拳を合わせる。


「ジャスティス1号、お疲れ様!」

「ジャス!」


 エスは正義剣ジャスティスソードの端っこを少しだけ折り、ジャスティス1号に食べさせる。


 エスにはある程度の余力があるが、ジャスティス1号は【憑依】で大半の正義力ジャスティスパワーを消費していた。


「助かったよ! ひとまず休んでて」

「ジャス!」


 労いの言葉をかけたエスは、剣の切れ端を食べ終えたジャスティス1号を送還する。


 正義剣も送還してユゼリアの下に戻ると、彼女は口を開けた体勢で固まっていた。


「ユゼリア、終わったよ?」

「……はっ! 情報量が多くて固まってたわ!」


 ユゼリアはブンブンと首を横に振り、パン! と自らの両頬を叩く。


「本当に倒したのね……最後の攻撃は何だったの? 何か模様を描いてたみたいだけど……」

「奥義・正義斬ジャスティス・スラッシュだよ。正義の刻印によって邪悪な存在そのものを滅するんだ」

「正義斬? 刻印? 相変わらずツッコミどころ満載だけど、すごいのね……」

「奥義だからね! 久々に使ったし、少し疲れたよ」

「少しで済むんだ……」


 ユゼリアは溜め息を吐いて苦笑する。


「それじゃ、町に戻ろっか!」

「そうね。デルバートに報告しないと」

「うん。それに、まだ少しだけやることが残ってるし」

「やること?」

「うん。たぶんだけど――」


 エス達はそうやって話しながら、駆け足でロズベリーを目指す。


 混成体が放出した黒い魔力マナや咆哮の大きさはかなりのものだったので、町のほうでも何かしらの騒動になっている可能性が高い。


 エス達が町門に到着すると、案の定人だかりができており、先頭のデルバートが走ってきた。


「エス! ユゼリアの嬢ちゃん! 無事だったか! 森のほうで黒い柱が上がったという報告があってな……俺も咆哮と地響きを聞いたが、エス達は――」


 デルバートはそこまで言って言葉を切る。


 無言で頷いたユゼリアの目を見て、エス達の関連を確信したのだ。


「話を聞かせてもらえるか?」

「歩きながら説明するわ」

「分かった」


 町の中に入った後、デルバート達は話を再開する。


「で、一体何があった?」

「そうね、簡潔に言えば――」


 ユゼリアは事の経緯をかいつまんで説明した。


「な!? 儀式で生まれた混成体だと!? 異様な再生力の持ち主で、なんだかんだでエスが倒した……!!?」

「ええ。その通りよ」

「…………」


 頷くユゼリアに、デルバートはしばらく閉口する。


「……信じがたい話だが、事情は理解した。また町のピンチを救われたな……感謝する」

「礼ならエスに言って。それに、まだやるべきことが残ってる」

「やるべきこと?」

「ええ」


 ユゼリアはそう答えてエスを見る。


「まだ町に敵がいるのよね?」

「なに!? まだ敵が……!?」

「たぶんね。混成体を倒した後に――」


 エスはデルバートに説明する。


 森への帰還中、ユゼリアに伝えた内容だ。


 それは、混成体が消滅した直後のこと。


【憑依】で感覚が研ぎ澄まされていたエスは、ふと何者かの視線を感じ取った。


 視線はすぐに途切れたが、意識を集中させてみたところ、町のほうから微かに混成体と共通の気配を感じたのだ。


「――混成体と共通の気配だと?」

「推測になるけど、たぶん洞窟にいた男なんじゃないかと思うわ」


 デルバートの言葉にユゼリアが答える。


「あの男は、自分の血が染みた布を儀式の壺? に投げ入れてたから」


 あくまでも推測であり確証はないが、状況的にそう考えれば筋が通る。


「なるほど……今回の件の黒幕ってわけか。だが、この町のどこに隠れてるんだ?」


 デルバートが首を傾げて言う。


 ユゼリアの推測が正しい場合、男はこの短時間の間に町に忍び込んだことになる。


「怪しい男を見たという情報はないし……洞窟から転移の魔法陣で飛んできたと考えるのが妥当だが……」


 森から町へと飛ぶ転移となれば、かなりの大きさの魔法陣が必要だ。


 その辺に描けばすぐに見つかるし、夜道の襲撃の件で捜索隊を出した際、怪しい建物等も一通りチェック済みである。


「魔法陣を描ける場所があるのか?」

「そうね。そこが問題なんだけど……」


 デルバート達は「「うーん」」と考え込むが、エスが「いや」と口を開く。


「大体の目星は付いてるよ」

「「え!!?」」


 目を丸くするユゼリアとデルバート。


「なんとなくだけど……あっちの方から気配を感じるんだ」


 エスはそう答えると、その方向を指で示す。


 憑依時の鋭敏な感覚がまだ少し残っていたのだろう、町門を抜けた辺りで微量の気配を感じ取ったのだ。


「あっちの方向は…………まさか!? だがそうか、たしかにあそこなら捜索も……」


 エスが示した方向を見て、ぶつぶつと呟くデルバート。


「心当たりがあるの?」

「ああ……」


 ユゼリアの問いに、彼は神妙な顔で口を開く。


「エスが指をさした方向には、1つだけ未捜索の建物がある。敷地も十分に広いから、身を隠すには最適な場所だろう」

「まさか……それって……」

「ああ」


 デルバートはゆっくりと頷く。


「この町最大の建物――――ロズベリー領主の館だ」

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