正義041・後始末
それから2~3分後。
駆け足で進んだエス達は領主館の前に着いていた。
デルバートが言っていた通りの大きな建物で、正面には立派な門がある。
門の前には2人の騎士が立っており、常時警戒態勢を敷いていた。
「どうする? 裏から回っていくか?」
「正門の騎士が敵側の可能性もあるものね」
「正門の人達は大丈夫そうだよ」
エスは
悪人であれば多少なりとも悪のオーラが見えるが、そんなオーラは微塵も感じない。
2人とも善良な心の持ち主に見える。
「エスがいると便利だな……」
「本当にね……」
デルバート達は苦笑しながら正門の騎士の下へ行き、事情を説明する。
「――え!? 領主館に危険人物が?」
「ああ、事態は急を要する。悪いが通させてもらうぞ」
「……分かりました。そういうことであれば」
騎士達は驚いた様子を見せながらも、すんなりと門を通してくれた。
「よし、なるべく慎重に向かうぞ」
「分かったわ」
「オーケー!」
敷地内に入ったエス達は、周囲の目を警戒しながら建物に接近し、茂みの裏に身を潜める。
「さて、ここからだが……一気に乗り込むか?」
「敵の位置が分からないか見てみるよ」
そう言って、正義眼に意識を集中させるエス。
すると、2階にある窓の奥から
「……あの窓の部屋が怪しいね」
「すごいな……そこまで分かるのか……?」
「たぶんね。窓から直接侵入する?」
「そうだな、それが確実だろう」
デルバートが答える。
正面から入って逃げられれば元も子もない。
「オーケー! それじゃあ、俺が窓から飛び込むよ」
「了解。私達もすぐに続くわ」
「ああ」
頷くユゼリアとデルバート。
それを見たエスは、視線で合図を送り、2階の窓までジャンプした。
(……っ! いた!!)
窓枠部分に飛び乗ったエスは、部屋の中にいた人物を視認する。
ユゼリアの話に出てきた通りの、黒装束の怪しい男だ。
床に何かを描いていた男は、エスのほうをちらりと見て目を見開く。
「な!!? お前は――ブゴベバァァッ!!!」
窓を突き破ったエスと衝突し、ゴロゴロと転がっていく男。
ゴッ! と壁に衝突した後、ふらふらと震えながら立ち上がる。
「ぐぅ……な、なぜお前が……!!」
男は動揺した様子を見せながらも、懐から数枚の札を取り出す。
「ちっ……! まあいい!! なら殺すまで――」
「させないよ!」
「ゴバハァァッ!!!?」
札に魔力を籠める男だったが、一瞬で距離を詰めたエスの拳が炸裂した。
男はギュルギュルと回転しながら飛んだ後、ズシャッと床に落下する。
「エスッ!! 加勢するわ……よ……」
「ああ!! 俺達も戦うぜ……って……」
割れた窓から入ってきたユゼリア達が、床に転がった男を見て固まる。
「もう終わってたわ……」
「あ、ああ……」
男はピクピクと痙攣し、完全に白目を剥いていた。
また、エスの拳を受けた左頬が恐ろしいほどに陥没し、顔全体が三日月型に変わっている。
「これ……生きてるのよね……?」
「ああ……どう見ても重体だが……」
「大丈夫! ちゃんと手加減はしてあるから」
「「手加減とは……??」」
ユゼリア達の声が綺麗に揃う。
こうして、黒幕と思わしき男の身柄はあっさりと確保されるのだった。
男の身柄を確保してから数時間後。
領主館の捜査を終えたエス達は、連合の応接室に集まっていた。
「はぁ……こりゃしばらく忙しくなるぞ」
デルバートは溜め息を吐いて言う。
あの後、領主館の中は一通り捜索したが、いろいろな事実が発覚した。
まず1つ目は、館で働いていた使用人達について。
結論から言うならば、使用人達の実に9割が男の関係者――つまり敵側だったのだ。
エス達を見るなり襲い掛かる者。
館からの逃走を図る者。
悪事との無関係を装う者。
様々な行動タイプに分かれたが、前者2つはエス達3人+召喚したジャスティス1号で一網打尽に、後者はエスの正義眼で正体を暴かれた。
わずかに残ったまともな使用人達に話を聞いてみたところ、1年ほど前から使用人達の入れ替わりが激しくなったらしい。
その時にはもう、敵の魔の手が及んでいたという証拠だろう。
そして2つ目は、ロズベリーの領主について。
館の1階と2階を制圧した際、領主の姿は見当たらなかった。
敵側として既に逃走済みの可能性、あるいは既に殺された可能性が浮上したが、その後捜索した地下室で領主とその妻、息子を発見。
3人共に首輪を嵌められた状態で監禁され、かなり衰弱した状態だった。
首輪には隷属の魔法がかけられており、デルバートとユゼリア曰く『解除が大変』とのことだったが、エスが正義力を籠めた拳1発で破壊している。
現在3人は医療系クラン【朝露】に運び込まれており、特別病室で療養中だ。
「――しかし、こんな恐ろしいことが計画されていたとはな」
デルバートはこめかみに汗を流しながら、テーブルに置かれた資料を見る。
領主館の執務室で発見された、今回の事件に関する敵側の計画書だ。
洞窟での儀式内容や、敵の目的等が綴られていた。
「龍の心臓をベースにした混成体……本当によく倒せたわよね」
ユゼリアが呆れた顔でエスを見る。
森で戦った化け物の正体は、ユゼリアの予想通り混成体だった。
龍の心臓ベースに10種類以上の邪獣素材を投入し、悪神の呪い――
道理で、あれだけ凶悪な化け物が生まれるはずだ。
今回の件の首謀者――エスが倒した黒装束の男は、混成体を操って破壊の限りを尽くすつもりだったらしい。
混成体の能力が再生に特化していたことも、破壊活動を継続するための工夫だったようだ。
「エスがいなかったらと思うと……考えたくもないわ」
「そうだな……」
ユゼリア達はしみじみと呟く。
エスがいなければ混成体を止めることもできなかったし、首謀者の男を捕らえられていたかも分からない。
あの男はまず間違いなく天才だ。
そもそも、混成体の生成は非常に困難であり、過去にも成功例はほとんどない。
そんな中、あれほどの混成体を生み出したことは、驚愕すべき手腕である。
魔法札や魔法陣の扱いにも長けていたので、下手すれば逃げられていただろう。
誰1人として死人が出ず、首謀者の男も捕まったのは、控えめに言って奇跡なのだ。
「俺は正義の男だからね! 悪い奴らの相手なら任せてよ!」
「頼もしいわね……」
「まったくだ」
どんと胸を叩いたエスに苦笑しながら、ユゼリア達は今後の流れを話し合うのだった。
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