正義034・気配2

(……気配が消えた?)


 突如森のほうから感じた邪悪な気配は、ほんの1、2秒でふっと消えた。


(気のせい……? いや……)


 エスは首を振って否定する。


 さきほど感じた邪悪な気配は、気のせいだと無視できるようなものではない。


 森のほうを向いたエスは、その場でジャスティス1号を召喚する。


「ジャス!」

「ジャスティス1号、あっちのほうから何か気配を感じないか?」

「ジャス? …………ジャス!」


 数秒間目を瞑った後、頷いて鳴くジャスティス1号。


「ジャス!」

「やっぱりか……!」


 エスはきっと森を睨むと、ジャスティス1号と共に連合ユニオンへ急ぐ。


 すぐに到着してホールに向かうと、壁際にユゼリアの姿を見つけた。


「ユゼリア!」

「エス、そんなに慌ててどうしたの?」


 走ってきたエスにユゼリアが尋ねる。


「森のほうから嫌な気配を感じたんだ! ジャスティス1号もたしかに感じるって……」

「ジャス!」

「……森で何かあったの?」

「分からない。けど、嫌な予感がする」

「……分かったわ。急ぎましょう」


 頷きながら言うユゼリア。


 エス達は連合を飛び出し、急ぎ森のほうへと向かう。


「………ジャス!」


 町門を抜けた先の1本道を駆けていると、ジャスティスが低い声で鳴く。


「本当? それはまずいね……」

「ジャスティス1号は何て?」

「徐々に嫌な気配が強まってるって」


 何が起きているのかは分からないが、良くないことであるのは確実だ。


 森の入り口に着く頃には、エスにもうっすらと気配を感じ取れるようになっていた。


「急ごう!」

「ええ!」

「ジャス!」


 森に入ったエス達は、さらにスピードを上げて気配の発生源を目指す。


 かなり深い場所から発生しているようで、30分ほど進んでもまだ辿り着かない。


「……ジャス?」

「どうした?」


 さらに15分ほど進んだところで、ジャスティス1号が足を止める。


「…………ジャス」

「方向がはっきりしない?」

「ジャス! ジャスジャス!」

「そっか……それは困ったね」


 どうやら、気配の発生源が上手く感知できないらしい。


 近いエリアに何かがあることは間違いないが、どうにも曖昧な感じがするということだ。


 ユゼリアにも状況を説明すると、彼女は顎に手を当てて言う。


「もしかしたら、何かの魔法かもしれないわね。魔法の中には気配を隠蔽したり、方向を惑わせたりするものがあるから」

「魔法……厄介だね」


 そう呟いて唇を噛むエス。


 こうしている間にも、気配は段々と強まっている。


 このままもたついていると、事態が悪化してしまいそうだ。


「2手に分かれるのはどうかしら。大まかな場所が分かるなら、そこを分担して探すのが早いわ」

「いいね! そうしよう!」


 エスはユゼリアの提案に手を叩く。


 ユゼリアはコクリと頷き、地図を取り出した。


「私達がいるのはこの辺で、大まかな気配の出どころは……」

「ジャスティス1号、大体の範囲は分かる?」

「ジャス!」


 ジャスティス1号に話を聞きつつ、エス達は担当する範囲を決めていく。


「――よし、そしたらこっち半分を俺が、残り半分をユゼリアとジャスティス1号で回ろう」

「そうね。でもいいの? ジャスティス1号を借りて」

「うん、ユゼリアと一緒にさせたほうがいいよ。俺とジャスティス1号は主従の繋がりでお互いの方向が分かるからね」

「ジャス!」


 エスの言葉にジャスティス1号が同意する。


 エスとジャスティス1号に別の場所を割り振っておけば、いざという時お互いの場所に駆けつけやすい。


「便利なのね……分かったわ、戦力バランス的にもそのほうが助かるし。よろしくね、ジャスティス1号」

「ジャス!」

「担当範囲はさっきの感じでいい?」

「ええ。問題ないわ」

「オーケー!」


 ジャスティス1号がユゼリアに付き、それぞれの探索場所が決定する。


「それじゃあ、また後で。気を付けてね、エス」

「ジャス!」

「うん! ユゼリア達も」


 2手に分かれたエス達は、それぞれに探索を開始するのだった。

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