正義033・気配1
休憩を終えたエス達は、『ロズベリー森林』の浅いエリアに立ち寄った。
昨日の一件があるため、念のため異常がないかは確認しておいたほうがいい。
15分ほど森を歩き回り、ジャスティス1号に気配を探ってもらったが、特に異常はないようだった。
「ありがとな、ジャスティス1号」
「ジャス!」
敬礼するジャスティス1号を送還し、エス達はロズベリーに帰還した。
帰還後、
クエスト報酬を受け取った一行は、受付嬢おすすめの服屋に行くことにした。
数時間前にエスの服装の話題になった時、新しい服を探してみようという話になったのだ。
だが結果から言って、エスの服探しは失敗に終わった。
とはいえ、服がなかったわけではない。
問題となったのはエスの体質である。
服屋に入って数分後、とりあえず適当な部屋着を試着してみたのだが、違う服を着た瞬間、エスは妙なむず痒さを感じた。
むずむずとした違和感はどんどん強まっていき、10秒ほどが経過すると、ボン! と音がしてエスの体から真っ白な煙が発生。
モワモワとした煙が晴れた時、なぜか普段の格好に戻っていた。
「どんな体質!!?」とユゼリアからのツッコみが入ったが、その後別の服を試しても結果は同じだった。
着替えた直後から全身がむずむずしはじめ、最終的には煙と共に元の服に戻る。
マントを外し、別の服を上から羽織る形なら問題はなかったのだが、わざわざそうして新しい服を買う意味もない。
結局、服屋での買い物は諦め、適当に近くの雑貨屋等を見ることにした。
ここ数日でエスが買ったものといえば、食べ物を除きアイテム袋くらいである。
冒険者に必須と言われるポーション類、野営道具等は一切ない。
必要かどうかはともかく、最低限の冒険者グッズは揃えてもいいのではとラナに言われ、いくつかのポーション類と寝袋、水筒等を購入した。
また、これまでは何でもアイテム袋に突っ込む状態だったので、せめてお金は分けておこうと小さな財布も購入した。
アイテム袋ほどではないが、ちょっとした空間拡張が施されており、見た目以上に大量のお金を収納できる。
こうして、服は買えなかったがエスの持ち物が少しだけ充実した。
エスの買い物が終わった後。
ラナとユゼリアの買い物にも付き合うことになり、ゆっくりといくつかの店を回った。
全ての買い物が終わる頃には空も赤みを帯びはじめ、ラナ、ヴィルネと別れる時間になる。
2人は再び【朝露】に行き、ロレア達と過ごすということだ。
連合の近くで2人と別れたエス、ユゼリアは、お決まりとなった【龍の鉤爪亭】を訪れる。
料理の美味しいのはもちろん、メニューの種類も豊富なので、毎日来ても飽きないのだ。
「ひっく……エスは明日何をするの?」
「うーん、どうしようかな……」
「黒い邪獣の問題は解決したし、他の町に移動してもいいんだけど……」
「いいんじゃない? ロズベリーを出るなら……ひっく、私も付いて行こうかな」
「いや、まだ迷ってる。本当に出てもいいのかなって、少し引っ掛かってるんだ」
「引っ掛かってる?」
「うん」
エスは珍しく神妙な顔で言う。
〝謎の邪獣〟の問題はひとまず解決した。
が、本当に大丈夫なのか?
まだ大きな問題が潜んでいるような、そんな気がしてならないのだ。
ユゼリアにそう伝えると、彼女は「んー」と低く唸る。
「ひっく……夜道で襲ってきた仮面の集団は気になるけど……目的が
「うーん……たぶん?」
「ジャスティス1号は何も感知しなかったんでしょ?」
「まあね……心配しすぎかなぁ」
エスはそう言って、果実ジュースをひと口飲む。
「あと数日様子見して、何もなさそうなら別の街に移動するとか……?」
「ひっく……いいんじゃない? それじゃあ、明日もとりあえず森に行くの?」
「そうだね。また昼頃にでも行くつもり」
「そう。私も付いて行っていい?」
「もちろん!」
その後、明日の正午頃に連合で会うことを決めたエス達は、【龍の鉤爪亭】をあとにした。
(……何もなければいいんだけど)
ユゼリアと別れたエスは、森のほうを見ながら考える。
確証があるわけではないが、エスの嫌な予感はよく当たる。
何も起きなければいいと思う時に限って、何か良くない事態が起こるのだ。
宿に帰って眠り、平穏な朝を迎えた後も、嫌な予感が消えることはなかった。
そして、ユゼリアと待ち合わせた時間が近付き、連合へ向かっていた時のこと。
(……っ!! これは……!」
エスの背後――『ロズベリー森林』の方角から、突如邪悪な気配が発生した。
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