正義018・ジャスティス1号

「よし!」

「……それ、何してるの?」


 その辺の棒を拾ったエスを見て、ユゼリアが訝し気に言う。


「何って、召喚用の陣を描くんだよ」

「陣? 魔法陣ってこと?」

「たぶんそんな感じ!」


 エスはそう言って、棒で地面に円を描いていく。


 直径1メートルほどの円が出来たら、中心にどでかい『J』を刻んで完成だ。


「こんなもんかな」

「それで終わり!!? 雑すぎないっ!!!?」

「そう?」

「そうって……そんな陣があるわけないでしょ!!?」


 ユゼリアはポーチから本を取り出すと、パラパラとページを捲る。


「ほら、たとえばこれとか!! これでも簡単なほうなのよ!!?」


 彼女から見せられたページには、複雑な紋様が描かれている。


 円の中の六芒星をベースに、文字やら線やらを描き込んでいるようだ。


「なにこれ」

「魔法陣よ! エスのそれはただのラクガキじゃない!? 大体、魔法陣を使うのは契約の時で、召喚の時は使わないから!!」

「ええー……でもなぁ」


 円の中にジャスティス1号の『J』を描く。


 これがエス流の召喚陣だった。


「とりあえずやってみるよ」


 エスは陣の前に片膝を突き、右手から正義力ジャスティスパワーを送り込む。


 陣はこちらの世界でも機能するようで、正義力が吸われる感覚があった。


「ほら! 上手くいきそうだよ!」

「嘘……!? ラクガキが発光してる!!?」


 必要量の正義力を吸収した陣は、薄い黄金色に発光した。


 召喚が発動する前兆だ。


 数秒後、陣から視界を覆う大量の光が溢れ出す。


「――――――ジャスッ!!!」


 光が消えると同時に姿を見せたのは、二足歩行の小動物。


 体長は約60センチで、口元を隠す形で漆黒のマントを羽織っている。


 マントを留める金色のブローチには、召喚陣でも使った『J』の文字が刻まれていた。


 ピンと立った耳と尻尾から一見猫のように思えるが、無感情な丸く大きな瞳はどこかミミズクのようにも見える。


 体毛も全く生えておらず、マットな質感のグレーの肌が特徴的だ。


「ジャスティス1号!!」

「ジャスッ!!!」


 右手を上げながら、可愛らしい声で鳴く小動物改めジャスティス1号。


 その瞳から表情は読み取れないが、主であるエスには再会の喜びが伝わってきた。


「久しぶり……なのかな。元気だった?」

「ジャス!!」

「そっかそっか」

「待って!? 理解が追い付かないんだけど!!?」


 傍らで見ていたユゼリアが大声でツッコむ。


「まず何で召喚できたのか謎だし!? その召喚獣? も知らない生き物だし?? 1度にいろんなことが起きすぎよ……!!」


 一息に言い切ると、はあはあと肩を上下させるユゼリア。


「まあまあ。こいつは使い魔のジャスティス1号」

「ジャス!!」


 エスはジャスティス1号を抱いてユゼリアに紹介する。


「何の動物? なのかは正直俺も分からないや」

「分からないの!!?」

「うん。気付いた時には使い魔だったし」

「どういうこと!!? っていうか思ったんだけど、鳴き声も特殊すぎない!!? そんな鳴き方の生き物見たことないわよ!!?」

「名前がジャスティス1号だからね。ジャスって鳴くのは普通じゃない?」

「………………」


 ユゼリアはしばらく閉口していたが、しばらくすると諦めたように溜め息を吐く。


「はぁ……まあいいわ。で、どうしてジャスティス1号を呼んだわけ?」

「ああ、そうだった! ジャスティス1号は鼻が利くからね。森の中の嫌な雰囲気について、何か分かるかもと思って」


 ジャスティス1号は悪の気配に敏感だ。


 彼(エスはオスだと考えている)に気配を探ってもらえば、手掛かりを見つけられるかもしれない。


「そういうわけで、頼めるかな? ジャスティス1号」

「ジャスッ!!」


『任せろ!』と鳴くジャスティス1号。


 この世界に来たばかりだというのに、頼もしい限りである。


 エス達は彼の感覚を頼りに調査を再開するのだった。

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