正義016・不穏

 ユゼリアの話を聞きながら草原を進むこと1時間。


 調査の目的地である『ロズベリー森林』が見えてきた。


 道中ではたくさんの邪獣が出現し、ロレア達が持っていた袋を魔核と素材でいっぱいにしている。


「少し邪獣の数が多いですね……」

「だね。たまたまなのかもしれないけど、帰ったら要報告だねー」

「ええ。さきほどの土大蛇アーススネークと併せて伝えましょう」


 ロレアとラナがそんなやり取りをする。


 土大蛇というのは、Dランクの蛇型邪獣だ。


 つい5分ほど前に茂みから飛び掛かってきた。


 エスの拳1発で沈んだので特に問題はなかったが、ロレア達は妙だと言う。


 邪獣にも活動地域というものがあり、土大蛇は森林凄しんりんせい邪獣。


 つまり、本来は森にいるはずの邪獣なのだ。


 比較的森との距離が近いのでありえないことでもないようだが、それでも滅多にないはずだとロレア達は言った。


「この辺りは〝謎の邪獣〟の目撃例があるわけですから、些細な事象も無視はできません。森での調査も慎重に行いましょう」

「まあ私達はともかく、エス君達なら大丈夫だと思うけどねー」


 ラナが笑いながら言う。


「そうですね。ユゼリアさんの魔法も素晴らしいですし、エスの強さも相変わらずですから」


 道中に出た邪獣のほとんどは、ロレア達が出るまでもなく2人が片付けた。


 ユゼリアが使う魔法は多様で高威力だし、エスのとんでも戦法に関しては言うまでもない。


「ジャス……なんとかパワーだったっけか? 本当とんでもねえよなぁ」 

正義力ジャスティスパワーだよ」


 エンザにそう答えながら、エスは「あ、そうだ!」と思い出す。


「そういえばこの前、教会で職業鑑定を受けたんだった! 皆にはまだ言ってなかったよね?」

「鑑定を受けていたのですか? どんな職業なのか気になってはいましたが……」

「すっかり忘れてたよ。訊いてくれればよかったのに」

「エスの職業は明らかに特殊でしたから。無理に詮索するのもマナー違反かと思いまして」


 冒険者にとって職業というのは命綱だ。


 広く知られた職業はともかく、珍しい職業を持つ冒険者には職業を明かさない者もいる。


 エスがそのタイプでないことは明白だが、ロレアは律義なので自分から尋ねることをしなかった。


「私も気になるわ! どんな職業なのか疑問だったのよね」

「あ、ユゼリアも聞いてないんだっけ?」

「ええ、気になってはいたけどいろいろあって忘れてたわ!」


 ユゼリアはそう言って笑う。


「で、結局固有ユニークだったのか? 普通の職業じゃないだろ?」

「たぶんね。ただ、どんな職業なのかいまいち分からなくて。【主人公】っていう職業なんだけど」

「「「「「【主人公】????」」」」」


 5人は顔に疑問符を浮かべながら言う。


「……全然分からないわ。体術系の固有職業ユニークジョブかなと思ってたのに」

「うん、鑑定した人もどんな職業か分からないって言ってた」

「そうですね……【主人公】は……」

「聞いたことがないタイプの職だねー」

「名前じゃ想像がつかねえな……」

「よ……予想外すぎます」


 皆、【職業師ジョブチェッカー】のポロと全く同じ反応だ。


 想像の斜め上を行く職業名に困惑している。


「まあいいよ。謎の職業だけど、能力は問題なく使えてるし」

「それもよく分かりませんけどね……」

「エス君がいいんならそれでいいんじゃない? 結論、よく分からないけど強い! ってことで」


 ラナがそう言うと、皆諦めたように頷く。


 あまりにも想像がつかない以上、考えたところで意味がなかった。


「――さて、もう1度気を引き締めましょうか」


 ロレアがパンと手を叩き、進行方向に目を向ける。


『ロズベリー森林』までの距離は既に100メートルを切っていた。


(あれがロズベリー森林……何も起こらないといいけど)


 エスはそう思いながら、特徴的な2本の大木を見据える。


 それらは互いに向き合う形で湾曲し、まるで巨大な入り口のように真っ暗な裂け目を作っていた。

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