正義015・魔法と属性

 どうやらユゼリアとロレア達は顔見知りの仲だったらしい。


 考えてみれば、どちらも同じライトナムから来ているのだ。


 さすがに言葉を交わす仲ではないようだが、互いの存在は認知しているようだった。


「――しかし、本当に驚きました。なぜユゼリアさんがエスの名前を呼んだのかと思えば、一緒に探索に出かける約束をしていたなんて」

「しかも勝負を仕掛けられて勝ってたなんてねー」

「あ……あれは! 使える魔法に制限があったからよ! 全力を出せればもっとやれたんだから!」


 ラナの言葉に頬を赤くして答えるユゼリア。


 エス、ユゼリア、ロレア達の6人は、町門を出た先の一歩道を歩いていた。


 皆、目的は〝謎の邪獣〟の調査。


「目的が同じなら一緒に行こう!」とエスが提案したのは自然なことだ。


「っていうかエス、いつの間に調査依頼を受けてたのよ? 昨日までは受けてなかったじゃない」

「ユゼリアが来る少し前だよ。昨日の勝負を見て声を掛けようと思ったんだって」

「ふ……ふん! よかったわね!」


 ユゼリアはそう言って顔を背ける。


 ロレア達が一緒にいるからか、心なしか態度が堅い。


 ロレア達曰く、ライトナムでのユゼリアは〝孤高の存在〟だったそうで、こうして皆と話す状況自体がレアだそうだ。


 エスには初対面から突っかかってきたので意外だが、実は人見知りの気があるのかもしれない。


「それで、この後の流れはどうしますか?」

「森に着くまでは一緒に動いて、そこから別々になるのがいいんじゃないー?」

「たしかに……それがベストですね」


 ロレアとラナがこの後の流れを話し合う。


 その結果、ロズベリー大丘陵のエリアは6人で行動し、森に到着後はロレア達/エス・ユゼリアで分かれることになった。


「それにしてもエス……ユゼリアさんに〝制限〟があったにせよ、よく勝負に勝てましたね。彼女は本物の天才……10代半ばにしてAランクに達していますから」


 すぐそこに丘陵が迫ったところで、ロレアがふいに口を開く。


 ユゼリアがピクリと反応するが、『天才~』の部分で「ふふん」と上機嫌になった。


「そんなにすごいことなの?」

「すごいよー。その年齢でAランクなのもすごいけど、彼女はソロ冒険者……しかも【魔導士】だからね」

「ああ。【魔導士】っつーと近距離戦じゃ不利な職業だ。かなりの実力がないとソロで高ランクのエリアに入るのは厳しい」


 エスの疑問にラナとエンザが答えてくれた。


 ユゼリアもそうだと言わんばかりに、ドヤ顔で頷いている。


「そっか、そう聞くとユゼリアってすごいんだなぁ」

「当然よ!」


 そうして一行は、『ロズベリー大丘陵』に足を踏み入れる。


「――ギャギャギャッ!!」

「小鬼の群れです!」

「俺が行くよ! まとめて来い!」


 大丘陵で最初に遭遇したのは、6体の小鬼ゴブリン集団だった。


 小鬼達はエスを囲んで同時に攻撃しようとしたが、エスがその暇を与えるはずがない。


「――それっ!」


 ドガガガガガガッ!!!!!!


 円形に並んだ状態のまま、〝杭打ち戦法〟で一網打尽にする。


「何度見てもすごいですね、この光景は……」

「綺麗な円に並んで壮観だよねー」

「アタシも見習いたいパワーだな!」

「す、少しシュールですけど……」


 地面から上半身を生やした小鬼集団に、各々の感想を述べるロレア達。


 彼女達からすれば既に見慣れた――見慣れざるを得なかった光景だが、初見のロレアにとってはそうではない。


「な、なな…………なによこれっ!!!!??」


 ポカーンと口を開けた状態から立ち直ると、埋められた小鬼達に近付く。


「ふ……普通こうなるものなの?」

「エス君は普通じゃないからねー」

「「「うんうん」」」


 ラナの答えにロレア達3人が頷く。


 ユゼリアは唖然としていたが、しばらくすると「はぁ」と溜め息を吐いた。


「勝負の時も思ったけど、エスってとんでもない奴なのね……」

「あ、そう思ってはいたんだねー」

「も、もちろん……? 私も負けるつもりはないわよっ!?」


 ユゼリアはすかさずラナの言葉に反応する。


「分かってる分かってる。ユゼリアちゃんは天才だもんねー」

「ふふん、その通りよ! 私は『ライトナムの天才魔法少女』なんだから!」


 胸を張って言うユゼリアに「そうだねー」と笑うラナ。


 ユゼリアの反応を楽しんでいる様子だ。


 ロレア達3人も微笑ましそうにユゼリアを見ている。


「次は私の魔法を見せてあげるわっ!!」


 ユゼリアがそう言ったところで、1体の黒蟷螂ダークマンティスが出現する。


「ギギィ……!!」

「ちょうどいいわね! 私がやるわ!!」


 ユゼリアはさっと杖を構え、黒蟷螂のほうへ向けた。


「切り刻め――【旋風刃ホワールウィンド】!!」

「おおっ!!」


 てっきり昨日のように炎の攻撃なのかと思っていたが違うようだ。


 黒蟷螂の体を巻き込むように強烈な旋風が発生した。


 旋風は薄緑色に発光しながら威力を増し、10メートルほどの高さに達する。


 内側では無数の風の刃が敵の体を刻んでいたようで、旋風が解けた後にあるのは散らばった残骸と魔核だけだった。


「今の魔法は何? 昨日の炎の魔法とは違うけど」

「中級風魔法の【旋風刃】よ。草原だから風の魔法にしておいたの」

「【旋風刃】で今の威力ですか……さすがユゼリアさんですね」

「普通の旋風刃はここまで高威力じゃないもんねー」

「ふふん。ちょっと出力を上げてみたわ!」


 ユゼリアは得意気に言う。


 本来はもっと小規模な魔法のようだが、意図的に威力を上げたらしい。


 その芸当にロレア達も驚いている。


「ユゼリアは火と風の魔法以外も使えるの?」

「もちろん使えるわよ!」


 エス達は黒蟷螂の魔核を回収し、ユゼリアの話を聞きながら先に進む。


 曰く、魔法には複数の属性があるとのこと。


 ・火、水、風、土の基本属性

 ・光、闇の上位属性

 ・氷、雷、樹、時空などの特殊属性

 ・上記以外の無属性


 複合魔法の類もあるので明確な線引きができないこともあるようだが、概ねはこのように分類されているようだ。


 一般的なのは4種類の基本属性で、それ以外の属性はあまり見られない。


 貴重な属性である分、強力な魔法が多いようだが、使い手もごく一部に限られる。


 魔法系の職業を持つ人々の大半は、基本属性のうち1種類のみを使えるのが普通。


 2種類の属性を使えるだけでも珍しいそうだ。


 そんな中、ユゼリアが主に使う属性は『火、水、風、土、光』の計5つ。


 身体強化等のちょっとした無属性魔法も使えるというので、それを含めれば6属性だ。


「私が使える属性の多さは、冒険者の中でもトップクラスなのよ!」

「へえ、すごいんだね!」

「ふふん」


 ユゼリアはドヤ顔で胸を反らす。


 ちなみに【僧侶】のヴィルネは回復魔法を得意とするが、回復系は光属性とのこと。


 ユゼリアが使える光魔法というのも、基本的には回復系なのだそうだ。


「あとはそうね。私が使っている詠唱も――」

「ギャギャッ!」

「あっ、小鬼だ」


 ズドッ!!!!!!


 話の腰を折らないよう、直接心臓部分から魔核を掴み出して討伐する。


「――ごめんごめん、話を続けて!」

「……………………」


 ユゼリアは一瞬固まったが、何も見なかったように話を再開するのだった。

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