正義007・調査1
その翌朝。
こちらの世界で初めて迎える朝だ。
ベッドですっきり目覚めたエスは、宿を出て
「来ましたね。おはようございます、エス」
「エス君、おはよー♪」
「おはよう! ロレア! ラナ!」
連合の前で待っていたロレア達と挨拶を交わす。
なぜ彼女達がいるのかというと、共に邪獣を倒しに行こうという話になっているからだ。
昨晩、やはり邪獣が気になる旨を伝えたところ、ロレア達のパーティに同行しないかと提案された。
彼女達のパーティは4人組なので、ロレアとラナの傍らにエスの知らない2人が立っている。
「パーティメンバーのヴィルネとエンザです」
「僕はヴィルネ……よ、よろしく」
「アタシはエンザだ! よろしくな!!」
ヴィルネはウェーブがかった薄い藤色の髪の男子。
線の細い華奢な体躯で、おどおどとした印象を受ける。
金の刺繍があしらわれた独特の衣装を纏っており、右手には太い木製の杖を握っていた。
一方のエンザは、肩口まで伸ばした赤茶色の髪に熊のような2つの耳を生やした女性。
細身ながら鍛えられていることが窺え、口調から負けん気の強さが窺える。
他の3人のような目立った武器は持っていないが、拳にナックルダスター――いわゆるメリケンのような特殊な形状のグローブを嵌めていた。
「俺はエス! 2人ともよろしく! 今日は一日お世話になるよ!!」
それぞれに個性的な2人は、ロレア達と同じく善人であることが分かる。
握手を交わして簡易的な顔合わせを終えた後、エス達はさっそく邪獣狩りに向けて出発した。
「今日の目的地は近隣の草原だったっけ?」
「ええ。私達も初めて行く場所なので、連合で貰った地図を頼りに進みます」
町の外へと続く門を抜けた一行は、真っすぐに伸びる一本道を歩く。
エスにとっては初めての、町の外側の世界。
(おお! 前の世界より自然が綺麗だ!!)
一本道の両サイドに青々と茂った背の低い草原が広がる。
エスがいた世界の大半は荒廃した不毛の地だったので、とても新鮮な光景だ。
「目的の草原はここじゃないんだっけ?」
「そうですね。20~30分ほど歩いた先にある丘の上の草原とのことです」
「ふーん。ロレア達も初めて行く場所ってことだけど、何かのクエストだったりするの?」
「それはですね――」
道中の景色を楽しみつつ、エスはロレアの話を聞く。
彼女達は元々ライトナム――ロズベリーから馬車数日離れた大きな町を拠点にしているが、今回は連合の指名依頼でやってきたのだという。
その依頼というのが〝謎の邪獣〟の調査。
ここ数ヶ月、ロズベリー近郊で見たことのない邪獣の目撃例が相次いでいるそうだ。
既にいくつかのパーティが調査の依頼を受けているが、目ぼしい成果は得られていない。
そこで、安定した実力と素行の良さで知られるロレア達のパーティに依頼が舞い込んだ。
今日はその調査の初日として、謎の邪獣の目撃例が多い森の手前に位置する草原を見に行くらしい。
「今のところ草原で被害はないようなので安心してください。それに、エスに危険が及びそうなら徹底の判断を下します」
「ありがとう! 心強いよ!」
「ふふ。これでもそれなりに経験を積んだパーティですからね」
「そうそう。これでも皆Cランク以上だし、ロレアはこの前Bランクに昇格したんだよー」
「へえ! そのCランク? とかBランクっていうのは何のランクなの??」
エスが尋ねると、ロレア達4人は顔を見合わせる。
「話には聞いちゃいたが、ホントに何も知らねえんだな!」
「え、ええ……驚きですね」
豪快に笑うエンザと頷くヴィルネ。
ロレアとラナも頷いているが、2人ほどは驚いていない様子だ。
「ランクというのは、冒険者のランクのことですよ。一部例外はありますが、ランクが高いほど冒険者の実力も上がります」
「ランクは全部で11段階。Cランクは真ん中より下だけど、一人前の冒険者として認められるランクなんだよー」
2人はランクシステムについて説明する。
冒険者登録時は基本的に最下級であるGランクから始まるらしい。
そこからコツコツとクエストをこなし、少しずつランクを上げていく。
ランクの分類としては以下の通り。
・G、F、Eランクが下級冒険者
・D、Cランクが中級冒険者
・B、Aランクが上級冒険者
・S、SSランクが特級冒険者
・SSSランクが超級冒険者
・U(ウルトラ)ランクが神級冒険者
ほとんどの冒険者はG~Aランクで、Sランク以上の冒険者は一握りしかいないらしい。
特にSSSランク以上の冒険者は滅多におらず、神級であるUランクに関しては片手で数えられるレベルしかいないそうだ。
「ちなみにクランにもランクがあります」
「クランランク。言いにくいけどねー」
「へえ、そうなんだ!」
クラン全体の実力を示す〝クランランク〟。
冒険者ランクと違ってUランクはないそうだが、G~SSSまでの10ランクが存在する。
ロレアがリーダーを務める【英霊の光】はBランクのクランだそうで、分類としては上級クランにあたる。
「上級クラン! すごいね!!」
「いえ、まだまだこれからですよ。それよりも、他に何か聞きたいことはありますか?」
ロレアは照れ臭さを誤魔化すように言う。
「うーん、それなら――」
彼女達のパーティの話や邪獣の話を聞きながら歩くこと十五分。
本日の目的地である丘の上の草原に到着した。
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