第22話 ギルドの依頼をメモる
私はタマラ夫人のうしろの壁に貼ってあった依頼票を読んでみた。
それこそが今日のテーマだった。
依頼内容、依頼主、報酬金額が書かれた紙が貼られている。
一番上にでかでかと貼ってあったのが、隣国のカサンドラ夫人の依頼で「国王陛下の病気を治す薬」だった。
私はうなった。
これは困るわ。
こんな具体性のない依頼、受けようがない。
大体、どんな症状で寝込んでいるのか全然書いてないじゃない。
「聞いたら教えてくれると思うけど」
タマラさんが解説してくれた。
「でも、受ける気もないのに聞けないし、聞いてからやっぱり止めますって言うのも、相手が相手なだけに言いにくいわよね」
私はウンウンとうなずいた。
ざっと見たところ、商店からの薬系の依頼が多かった。現在ある薬の改善依頼や、大発生中の虫退治の薬の新規開発とか。
そのほかは鑑定系。そう言われれば魔力で出来ることって、意外と多いよね。
同行依頼もあった。軍に帯同して欲しいとか(治療系?)、変わったところでは洞穴探検隊に同行と言うのもあった。これは鑑定の一種かな? それとも危険予知かな?
中には悪獣退治とか、家屋の修理とか、別なギルドに頼んだ方がいいのでは?と思われる依頼も混ざっていた。
「別なギルドに頼んでもうまくいかなかった事例が持ち込まれてくるの。原因がわからない場合とかね」
私に出来そうなのは、魔獣退治同行依頼などを除いた、外に出て行かない系の依頼かなあ。薬の改善とか。
元の薬があれば、どうして効くのか調べることにつながるので、勉強にもなる。
私は、タマラさんに不審そうな目で見られながら、夢中になってメモを取った。
「こんにちは、メアリ夫人」
後ろから突然声がかかった。
ビックリして自分が呼ばれたわけでもないのに、私は後ろを振り返った。
そしてメアリ夫人に声をかけたと言うのに、声をかけた人は私の方を見ていた。
赤毛と栗色の髪の、背の高い二人連れだった。
多分魔術師だろう。ここのギルドの登録者に違いない。
目が合うとニコリと笑ってきた。
「僕らは魔術ギルドの登録者でね。カルロと……」
栗色の髪の若い男性が自己紹介をして、それから赤毛の方を指した。
「マーシーだ」
赤毛の若者もうなずいた。
「君の名前は?」
「ええと……」
「エートさんなの?」
真面目な様子でカルロが繰り返した。
いや、違いますけど。
「君、とってもかわいいね。着ている服から見てギルドの登録者じゃないよね? ちょっとあそこで一緒にお茶をしない? ギルドの登録者とお茶をするのって、結構名誉な事なんだよ?」
「隠密のカルロさんと、透視のマーシーさん!」
メアリ夫人が声を荒げた。
「マラテスタ侯爵夫人、お気に入りの新しい侍女です。夫人がそう言ったことは決められます。それに、今は仕事中です!」
「さすが、マラテスタ家の使用人は違うなあ……美人だ」
マーシーさんが食い入るように私の顔を見つめて言った。
「メアリ夫人、ギルドの登録者はダメですか? 本当に綺麗な人だな。それに身ごなしに品がある」
「では、帰ります。それではまたね、タマラ!」
メアリ夫人が叫び、私は手をぐいっと引っ張られて、大急ぎでギルドを出て行くことになった。
屋敷に戻った後、メアリ夫人に聞かれた。
「ギルドはあんなところですが、大体わかりましたか?」
「はい。すごく勉強になりました」
私は意欲満々で答えた。
「ええと、どこが一番気に入りましたか?」
「もちろん、あの依頼票とかいう、依頼が書かれたです」
メアリ夫人の目がほっと笑ったのがわかった。
「まあ、色々あったけど、楽しかったみたいですね」
「すごく。つきましては、こちらの薬の改善依頼が出ていたのですが、市販されているものなので買いたいのですが」
私はメモを取った薬の一覧をメアリ夫人に渡した。
メアリ夫人は長いリストに目を通し、それから、呆然としたように尋ねた。
「これ、どうするんですか?」
「もちろん、改善してみます!」
私はやる気満々で答えた。
「全部ですか?」
「もちろん!」
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