第25話 令嬢職には興味がない

「あ、ありがとうございます。伯母様」


百パーセントを上回る勢いで、善意しかないことはわかっている。善意より愛情? とてもありがたい。



でもですね。


どう修正したらいいのかしら。


だけど、考えたら、私はイアンについて説明できることが少なすぎた。


いくら伯母でも、探しようがないかも。人相書きだって、私の頭の中だけにしかないし。


伯母は涙をハンカチでぬぐうと、私が取り出した薬瓶の話に戻った。


「だけどね、リナ、この商品を表に出す方法がないってこと、気がついているわよね?」


むっ? 私は黙った。


「あなたはギルドに登録していない。したがって、依頼を受けることすらできない。報奨金ももらえないし、なにより、その薬を必要としている人たちのところへ届けることが出来ない」


何にもならない。単なる私の遊びで終わってしまう。

私はしょんぼりした。


「あなたは魔術ギルドに登録すれば、十分生きていけるわ。ロビア家の財産もいらないと思う」


私はパッと伯母の顔を見た。


「登録できるでしょうか?」


「魔術ギルドは特に審査が厳しいのよ。私の姪だって素性を明らかにすれば、例え外国人でも何の問題もないと思うけれど、それをするとロビア家の問題が出てきてしまう」


「お嬢様! 正当な権利を取り戻しましょう!」


セバスが叫んだ。


それ、本当にどうでもいいんだけど。


「少し考える時間をください」


私は言ってみた。ギルドには、絶対登録したい。自立できる。

だけど、バーバラ夫人やエミリなんかとは、二度と会いたくない。口もききたくない。


「まあ、今後のフリージアの状況から、判断すべきだと思うわ。あと、それと……」


伯母は、私が取りだしたいくつかの薬のビンを取り上げた。


「ねえ、リナ。あなたなら、ずっとかかりっぱなしになっているカサンドラ夫人からの依頼を受けられるのではないかと思うの」


「え?」


カサンドラ夫人はフリージアの国王の親族の女性で、病気の王の代わりに国を牛耳っている。


「今、私程の魔力がある人間はいない。だから、一応、カサンドラ夫人は私に、フリージア国王の病気を治す薬の依頼を出したの。出さないわけにはいかなかった。出さなければ、本気で国王を治療する気があるのか、疑われるから」


どういうこと?


「つまり、カサンドラ夫人は国王に治って欲しくないのだと思うのです」


伯母は重々しくうなずきながら言った。


「だから、依頼内容もあいまいで、病状を具体的に書いていないのだと思うわ。別に詳細を付けてくれているわけでもない。あれでは受けられません」


わざと、受けにくくしていたのね。


「でもね、あなたは百種類もの薬を新開発、または改善した。どうにかなるんじゃないかしら?」


「でも、伯母さま、伯母さまはこれまで、カサンドラ夫人は国王陛下の病気を治したくないらしいと感じたので、敢えて依頼を受けなかったのでしょう?」


「今は事情が変わったのよ。カサンドラ夫人の天下も長くは続かないと思うの。留学先からイアン王太子が戻ってくると言う噂があるから、そうなれば失脚すると思うわ」


イアン王太子殿下は、この件をどう思っているのだろう?


「王太子殿下は、カサンドラ夫人の娘か姪と結婚する予定だったのではないですか?」


「王太子殿下、婚約は嫌だったみたいよ? それで帰ってこなかったらしいから」


あ、そうなんだ。イアン王子、そこは普通の人だったんだ。


「とにかく、そろそろ依頼を受けてフリージアに恩を売る方がいいと思うの。そして、あなたの名誉回復もしたいわ」


「伯母さま、私、きっとフリージアでは変人として有名だと思うんです。おまけにちっとも美しくないって」


「まあ、あなたは何を聞いていたの? 侍女も魔術ギルドの若者もあなたをほめちぎっていたでしょう? 私はメアリから聞いたわ。あのプライドの高い魔術師連中が、誘いに来たって。侯爵もとても美しく成長したって、それは喜んでいたわ」


私は黙っていた。


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