第57話 あふれる涙
「…………アオイ」
すべてを隣で見ていたリクは、天を見上げるアオイに声をかける。
その瞳は、置き去りにされた子犬のように寂しげに空を見つめていた。
「……っ……ふっ……」
そして小さな魂を見送ると、アオイは胸の前で手を重ねて崩れ折れ、堪えていた涙を一気に零れさせた。
「大きな夢を持って懸命に生きていたのに……ごめんなさい……ごめん……なさい……」
自らの手で付喪神の命を終わらせてしまった。
そのことに涙するアオイの体は、自分の罪を悔い懺悔するように震えていた。
「……やっぱり俺達は」
そんな悲しみの泉に沈む仲間の姿を見て、リクは側に佇みながら静かな口調で言った。
「俺達は間違った選択をしたのかもな」
唐突な一言にユイトは訝しげな表情になり、ミカはハッとしてリクの顔を見る。
自分達で覚悟して選んだ道を、今更間違っていたと口にしたリーダーに、疑念を覚えたのだろう。
「街を滅茶苦茶にされながら多くの人と付喪神を犠牲にして得たものは、ダ・ヴィンチという
「──ッ!? ちょっとリクあんまりじゃ」
事実を淡々と述べるリーダーに、ミカが抗議の声を上げる。それは失ったモノに対し得たモノは少ないと、命の冒涜とも捉えられる発言だったからだ。
だがリクは、抗議をあえて無視して続けた。
「けどな、すべての人間が間違いを犯さないなんてのはありえない。正しい選択なんて誰にもわからねぇし、正しかったかなんて決めるのはそれぞれの主観でしかねぇからな。だから俺は正解を選ぶんじゃなくて、自分がしたいと思った道を選んできた。仲間の助けも借りてな」
たかだか十八年生きてきただけの人間の言葉だ。それこそ大人になって年を重ねていけば、もっと違うことを思ったかもしれない。
「選んだ道の先が辛くて悲しい道で、思わず立ち止まりたくなることは俺にもある。それでも、俺は命も想いもすべて受け止めて、
けれど、後悔し続けて足を止めてはいられないし止めたくない。青臭い考えかもしれないが、今の自分にはその青臭さこそ大切にしたい想いだと、リクは強く感じていた。
「アオイはこれからどうしたい?」
甘く優しい言葉をかけることは簡単だ。しかし平穏な日常から、生と死が日常になった世界で、甘さだけを与えられ戦うことが怖くなってしまえば、それこそ命取りになりかねない。
厳しいかもしれないが、仲間としてリーダーとして、リクはアオイの意思を問うた。
「……私は……」
顔を上げ涙に濡れている瞳をリクに向け、アオイは声を発するのも辛そうにする。それでも意思は決まっているようで、声を詰まらせながら懸命に言葉を紡いだ。
「私は付喪神さんみたいに……犠牲になる命を一つでも多く減らして、皆を助けたいです」
そして零れそうになる涙を拭い、声を震わせながら。
「だから……だから、仲間として……
強くハッキリと自分の意思を示した。
「……わかった」
純粋で熱い気持ちを、リクはアオイの瞳を真っ直ぐに見つめて受け止める。
本当は意思など問わず、温かい言葉で慰めてやりたい。
だが、甘さを与えれば余計にアオイを苦しめることになる。それをわかっているからこそ、ミカもユイトも途中で口を出してはこなかった。
「なら俺から言いたいことは一つだ」
そう言ってリクは真面目な顔を緩め、優しい表情を浮かべると、
「これからも仲間として一緒にいよう。四人で願いを叶えようぜ」
共に歩んでいこうと心強く言いきった。
「この四人ならどんな山でも谷でも越えていけるわよ」
そんなリクとアオイのやりとりに、ミカは明るい笑みをたたえ。
「なんたって幽霊だからね。このまま全区解放まで皆で飛んでいこう」
ユイトは悪戯っぽく白い歯を見せた。
「これからも悩んだり悲しんだり、色々あると思う。でもそんときは、心の重さは俺達が一緒に背負ってやる……って、漫画の主人公みたいにカッコ良くはいかねぇだろうけどさ。俺達は俺達らしく、ガキっぽくがむしゃらに突き進んでいこうぜ」
そしてスッとリクが右手を差し出すと、
「はい……これからも、よろしくお願いします」
アオイはその手をしっかりと掴んで立ち上がった。
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