第48話 大地の薙刀

「あんなんまともに喰らったら、一発で終わるな」


 心現術イマジンの結界では防御できないレベルの威力に、リクは内心肝を冷やす。

 幽霊なので真横にいても熱を感じることはないだろうが、霊力の込められた武器が当たればただでは済まないだろう。

 最初に見せられた高出力レーザーほどではないにしろ、高熱を帯びた巨大な武器は、周囲の街と人間を壊滅させるには十分な威力を持っているように思えた。


「薙刀はリーチが長い分、懐に入れば攻撃できないはず。至近距離から攻撃しましょう」

「それっきゃねぇだろうな」


 アオイの提案にリクも同意する。

 薙刀の範囲外からでは、効果的にダメージを与えるのは難しい。

 危険ではあるが刃の部分に気をつけながら近接攻撃を狙っていくしかない。


 再びミカの心霊現象ポルターガイストを使って心現術イマジンを叩き込む手もあるが、天才相手に同じ手法は通じないだろう。むしろ返り討ちにされる危険性の方が高そうだ。


「ん? ちょっと待って。あいつ止まってない?」


 総攻撃するために四人が空へ上昇し始めたとき、眼下のアンドロイドを見たミカが眉をひそめた。


「そういえば、さっきから動いていませんね」


 アオイも〝間違いない〟と同調する。武器が抜けなくなったという間抜けな展開も頭をよぎったが、引き抜く動きもなく、機能を停止したようにその場に固まっていた。そこに、


「あれ? ダ・ヴィンチどこ行ったの!?」


 ユイトの不安を煽る一言が重なり、一同はギョッとして巨体の肩に視線を集中させた。


「いつの間にかいなくなってる!? まさか最終ラウンドって言いながら逃げたのか!?」

「でも目を離したのなんて一瞬だし、こんな見晴らしのいい場所で逃げるところを見つけられないなんてこと」


 アンドロイドが破壊しまくったせいで、公園内にあった建物はすべて倒壊している。

 公園外の建物には原型を留めている物もあったが、一瞬でたどり着ける距離ではない。隠れられる場所がない以上、逃げたとしても透明化した可能性が高かった。


「逃げたというより、透明になって襲ってくるつもりかもしれないね。けどアンドロイドが動いていないならチャンスだ。周囲を警戒しつつ倒しちゃおう」


 四人で焼け野原になった公園を見回しても、ダ・ヴィンチの姿は見つからない。しかし逆に、ユイトの言うようにアンドロイドを倒す絶好の機会でもあった。


「念のため二手に分かれる。ミカとユイトは右手から、俺とアオイは左手から、互いをサポートしながら行くぞ。まず俺が攻撃するから、それで倒しきれなかったら追撃してくれ」


 もしダ・ヴィンチが透明化して襲ってくるつもりなら、全員で固まって行動しているとまとめてやられる可能性がある。

 リクは仲間に指示をして、アオイと共にアンドロイドの左手側に移動する。位置的にはちょうどダ・ヴィンチが乗っていた肩の側だ。


「やっぱりいねぇな」


 アンドロイドの体に隠れているかもと、リクは注意深く離れた位置から観察してみたが、やはりダ・ヴィンチの姿は見当たらなかった。


「俺が増幅した上級心現術イマジンを使うから、アオイは周囲の警戒を頼む」


 武器では一撃で倒せないだろうし、攻撃をキッカケに再稼働されたら困る。

 できれば全員で同時に大技を放って倒したいところだが、詠唱に集中しているときに襲われることは避けたい。


 相手より上に立つことに愉悦を感じ、プライドも高そうなダ・ヴィンチのことだ、隙を見せた瞬間に何か仕掛けてくることも予見された。


「昏き地に眠る宵闇の使者よ」


 護符を構えたアオイに背を預け、リクは現時点で自身が使える最上級の術詠唱を始める。

 心霊現象ポルターガイストだけでなく、心現術イマジンは心を現す術と言われるように、術者の精神状態や詠唱時の気持ちの込め具合によっても威力が変動する。だからこそ、可能な限り集中した状態にもっていきたかった。


「汝の猛き咆哮で」


 ここまで心現術イマジン心霊現象ポルターガイストを多用したせいで、心現術イマジン心霊現象ポルターガイストを使用するときに消費するMPの残りは心許ない。だが自然回復を待っている時間も惜しいし、チャンスを逃すわけにもいかない。

 その一心で、リクは集中力を最大限に発揮して言葉を紡ぎ。


「まだまだ甘いのだね」


 真横から聞こえたダ・ヴィンチの声に、背筋が凍りついた。


「ぐっ」「きゃっ」


 直後、体を棒で殴られたような衝撃が走り、防御する間もなくアオイと共に地面へと叩きつけられた。


「──アオイ! リク!」


 その様子を見ていたミカが、地面に転がる二人に向かって叫ぶ。


「ちくしょ。アオイ無事か?」


 身を起こしつつ、すぐ横にいるアオイに声をかけると、アオイは体を起こしながら、愕然としていた。そこに、


「二人共、逃げて!!」


 ミカがあらん限りの力で警告する声が響き、その意味をリクが理解するよりも早く、


「これで終わりなのだね」


 肩に乗ったダ・ヴィンチと、薙刀を振り翳したアンドロイドの姿が目に映った。


「しまっ──」


 つい先程のダ・ヴィンチをなぞるように、リクの口から声が漏れる。その場から離脱しようにも、迫ってくる巨大な刃を避ける暇はない。

 それでも仲間だけは守ろうと、リクは真横にいるアオイを庇うように両腕で抱きしめると、


「はああああぁぁぁああああっ!!」


 喉が裂けそうなほどの声量で吠えるユイトの声と共に、大地に深々と刃が突き刺さった。

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