魂の解放者～幽霊になった俺たちが有名人の悪霊を退治するＲＰＧ～

第47話 賭け

「そんな遠距離からの攻撃、無駄なのだね」

　ダ・ヴィンチがバカにするように絵筆を空へと向ける。

　遠距離からならば大技でも避けることは容易い。万一直撃しても威力は減衰して大したことないと踏んでいるのだろう。

　それでもリクは嘲笑するダ・ヴィンチに構わず、意識を集中しながらなおも詠唱を続け。

「──強き鉄槌を我が前に」

　終えた瞬間、ミカに向かって頷いた。

「やっちゃいなさい！」

　それを確認し、ミカが気合いを入れるようにリクの背中をバンッと叩いた、直後。

　リクはアンドロイドの真後ろに出現した。

「しまっ──」

「フォール・プレッシャー！」

　ダ・ヴィンチは気づくも時すでに遅く。

　リクは周囲に炎を纏った乗用車サイズの光球を増幅でいくつも出現させると、アンドロイドの背後から流星群のように降り注がせた。

『ガガガッ──背部、損傷発生』

　衝撃に耐えきれず、アンドロイドは気絶するかのように前方へ倒れていき。

　それでもなんとか体勢を立て直そうと堪えたところへ。

「バーデン・クラッシュ」

「アサルト・プラズマ」

　ユイトの放ったトラック大の鋼鉄球がアオイの電撃を纏って、相手のボディを直撃した。

「よっしゃ！」

　反動で仰向けになって落ちていく相手の姿に、リクはガッツポーズをとる。

「やったじゃない！」

　目の前の光景に、瞬間移動で隣に来たミカも興奮気味に功労者を称えると、すぐにアオイとユイトも飛び寄ってきた。

「正直賭けだったけどな。でも、これで周囲への被害は減らせるはずだぜ」

　リクは地面に視線を向け、羽を失いつつも必死に起き上がろうとしているアンドロイドの姿を見下ろした。

「うっし。奴が動き出す前に一気にケリつけっぞ！」

　リクは刀を携えアンドロイドに向かっていこうとし、ミカとアオイも追随しようとする。

「ちょっと待って！」

　しかし相手の様子を見つめていたユイトが制止し、

「なんだかすごく嫌な予感がする。ただの勘だけど、近づいたらヤバいような……」

　いつもより低いトーンで不安を口にした。

「……やってくれたのだね」

　直後、リクの一撃をまともに喰らい、アンドロイドから振り落とされていたダ・ヴィンチが、ゆらりと地面から起き上がった。

「これは相応のお返しをしなくてはいけないかね」

　そう言って、再びアンドロイドの頭上に浮かんだダ・ヴィンチは、

「全開でやるのだね」

　持っていた絵筆から大量の絵の具を生み出し、アンドロイドの全身を包み込んだ。

『リミッター、解除。最終フェーズ、移行』

　すると地面から浮き上がり、黒い包帯を巻いたように姿を覆い隠されたアンドロイドから、抑揚のない低い声音が響き。

　ドクンと脈打つような振動が空気を震わせたかと思うと、殻を破るようにバンッと黒い繭が弾けた。

『最終形態、移行、完了』

　先程までと変わらない機械じみた声が耳に届く。

　一方、着物は黒地に鮮やかな赤い華をあしらったものに変わり。

　刃を黒い光で編んだような、長い木の柄に刃がついた巨大な薙刀を手にしていた。

「こいつは確かにヤバそうだな……」

　一見すると艶やかで力強い古風な日本女性だが、感じるプレッシャーはまるで魔王を前にしているようにリクは感じた。

「ははっ……これは最悪逃げることも選択肢に入れておいたほうがいいかもね」

「〝人生の岐路（フェイト）〟で倒すを選んだから無理だろ。逃げても他の誰かが犠牲になっちまう」

　冗談っぽく弱音を吐くユイトに、リクは緊張しながら反論する。

　感じるプレッシャーもそうだが、最終形態とまで言ったことを考えると、決して侮ることはできなかった。

「先程までのお遊びとは違うのだよ。さぁ、恐怖に震えるがいいかね」

　絵筆を四人に向け冷酷な笑みをたたえ、ダ・ヴィンチは再びアンドロイドの肩に乗ると、

「第二ラウンド。いや──最終ラウンドを始めるかね！」

　〝これで終わりだ〟と宣言し、アンドロイドの首に触れた。

『武器霊圧、安定。攻撃、開始』

　するとアンドロイドは薙刀をクルリと回し、黒く光る刃を下に向けて跳ぶ。

「散れ！」

　言うが早いか、リクの叫びとほぼ同時に四人は左右に分かれ。

　直後、彼らのいた空間を薙刀とアンドロイドが通り過ぎ、黒い刃が大地を深々と貫いた。

「地面が……」

　刃の突き刺さった大地を仰ぎ見て、途轍もない威力にミカが声を震わす。

　薙刀は刃の根本部分まで突き刺さり、熱したナイフでバターを切ったかのように、貫かれた部分と周囲を溶かしていた。