第46話 空中戦
「地上で戦うのは不利だな。こっちも幽霊らしく空中戦でいくか。俺が先行する。各々、使えるもんは全部使って、アンドロイドを倒してくれ」
作戦ですらない指示をリーダーとして伝え、リクは勢いよく飛んでいき。
「コア・ジール」
急速に接近しつつ、ダ・ヴィンチに向かって炎球を放つ。
「こけおどしにもならないのだね」
しかしダ・ヴィンチがつまらなそうに呟くと、アンドロイドが着物の襟に挿していた扇子を広げ、振って起こした暴風で炎を散らした。
「くっそ、風の範囲攻撃かよ」
リクは風圧に耐えるが、向かい風を受けたせいで空中で動きを止められてしまう。
「次は私!」
その横を今度はミカが勢いよく通り過ぎると、脚で扇子を思いっきり蹴り上げ。
「ごめんなさい!」
追随していたアオイが護符を振ると、光文字がいくつも飛来しアンドロイドに直撃した。
「……あんまり効いてないわね」
しかし体格差がありすぎるのか、まともに喰らったにも関わらず、アンドロイドは少しよろめいただけで大したダメージを負ったように見えなかった。
「私の心血を注いだ作品が、その程度でどうにかできるわけないのだね」
二人の攻撃を受けてもなお、余裕な態度をとるダ・ヴィンチはフンと鼻を鳴らす。
「もちろん」
そして慢心していたダ・ヴィンチは、絵筆を高々と頭上に掲げると、
「私の力量も見誤らないで貰いたいものだね」
素早く自分の首元に下ろし、真後ろから来たユイトの斬撃を防いだ。
「一人いなくなっているのを私が失念すると思うかね?」
反撃を恐れ即座に離れたユイトに向かい、ダ・ヴィンチは肩越しに笑みを浮かべる。
「ラーサレイト・クロウ」
それに対する返事として、ユイトはいくつもの鉤爪状の岩を放つが、振り返ったダ・ヴィンチの絵筆によってすべて粉砕されてしまった。
「四人同時は面倒臭いかね。ちょっと人数を減らすのだね」
対多数戦を煩わしいと感じたのか、ダ・ヴィンチは不穏な一言を口にすると、再びアンドロイドの首に触れる。
『対多数モード、起動。全方位砲撃、開始』
すると両腕を上げたアンドロイドの袖と肩から銃口が顔を覗かせ、無数のレーザーを撃ち始めた。
「うおっ、危ねぇ!」
マシンガンのように発射される黒い光が、木々を貫き地面を抉り、公園外の建物をも次々と打ち砕いていく。ただのレーザーなら幽霊には効かないが、
「こっちです!」
なんとか避けながら、壁状の結界を張っているアオイのもとへ三人は飛び寄る。
「この数、耐えられそうにありません」
今にも結界を貫きそうな黒い光の雨に、アオイが辛さを訴える。数が数だ。このままでは突破されるのも時間の問題かもしれない。
「リク、
ユイトが周囲の音に負けないように言うと、リクはアオイの横に並んで両手を結界に触れ、力を注ぐイメージをした。
すると結界はより厚さを増し、巨大で強固なものへと強化された。
『対多数攻撃、効果皆無。一斉射出、終了』
結界を突破できないと判断したのか、アンドロイドが掃射を止め銃口を収納する。
「リク先輩、ありがとうございます」
「いや、こっちこそ助かったぜアオイ」
正直、アオイの結界がなければ逃げきることも隠れることもできず、SPがもたなかったかもしれない。
しかし四人は無事だったものの、周囲の木々や地面は壊滅的に抉られ、公園の近くにあった建物は爆撃に遭ったように崩れ穴だらけになっていた。
「空中だと、流れ弾が街にも行っちゃうね」
「あいつを飛べなくする必要があるな。三人共ちょっと耳貸せ」
そう言ってリクは仲間に作戦を伝えると。
「りょーかい。行くわよリク」
ミカと一緒に空へ向かってグングン上昇していった。
「逃がさないのだね」
その間にもアンドロイドが扇子を振って風の刃を飛ばしてくるが、遥か上空まで到達した二人には、散発的な攻撃を避けることは容易かった。
「おし、ここらで大技やるぜ。距離は問題ねぇな?」
「大丈夫。これくらいならイケるわ」
下手に近くで詠唱をしていたら格好の的になる。大技を使うにはどうしても距離をとるか、相手から邪魔されない環境を作る必要があった。
「早速始めるぜ」
拳大ほどになったアンドロイドを見下ろしながら、リクは気合いを入れる。眼下ではアオイとユイトが敵と交戦しており、二人の武器と扇子が互いに激しくぶつかり合っていた。
「──夜の星々に導かれ 宵闇を照らす暁よ」
頭上へと掲げた手のひらを通じて、上半身に熱が集まってくるような感覚を覚える。
「何をしようと言うのかね」
リク達の不穏な動きに、アオイとユイトを相手にしながらも、ダ・ヴィンチはアンドロイドに扇子を振らせ、リクとミカに向かって風の刃を放ってくる。
しかしその中で当たりそうなものは、ミカが拳や蹴りで弾いてリクの詠唱をフォローした。
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