第49話 大移動
「…………………………ん?」
覚悟を決めて数秒。
襲ってこない衝撃に、リクは薄目を開けて振り仰ぐ。
するとすぐ目の前には、薙刀の黒い刃先が地面を切り開き、ビルのようにそびえ立ち視界を遮っていた。
「なんで俺達生きて……」
「ボーッとしてんじゃないわよっ」
直後、呆然とするリク達の前にミカが現れたかと思うと、
「ヒヤヒヤさせてんじゃないわよ、まったく……」
溜息を吐きつつ苦言を呈するミカに、リクは申し訳なさそうに頭を垂れる。
ふいの襲撃に対処できなかったとはいえ、自分と仲間の命を失うところだったのだ、叱られても仕方なかった。
「もう。リーダーなんだから、23区を全部解放するまで生き残りなさいよね」
そう嗜めてリクの背中を叩くミカは、怒りながらも安堵しているように見えた。
「──リク、アオイ。大丈夫!?」
ユイトが全速力で飛び寄り、慌てて二人の安否を確認する。
その顔は、今まで見たことがないくらい焦りの色を浮かべていた。
「大丈夫。背を向けてたから何が起きたか知らねぇけど、刃は当たらなかったみてぇだし」
自分の体を叩き無事をアピールするリクに、ユイトは胸を撫で下ろし肩の力を抜いた。
「ユイト先輩が助けてくれたんですよね?」
すると今まで静かだったアオイが視線を上げ、ユイトの顔を窺った。
「あのとき、私は薙刀の動きを見ていたんですけど、途中で不自然に軌道が変わったんです。だからきっと先輩の
てっきり的を外しただけと思っていたリクが、立ち上がってユイトの顔を見つめる。確かに、薙刀が落ちる直前、ユイトの叫ぶ声は聞こえていたが。
「さっきは必死だったから無我夢中で。なんとか逸らすことができればって思いでやったけど、上手くいって良かった。代わりにMPを大量に使っちゃったけどね」
「そう……だったのか」
ハハッと笑うユイトに、リクの胸は熱くなる。
「お陰で命拾いした。ありがとな」
「ユイト先輩、本当に助かりました。ありがとうございます」
巨体から放たれる薙刀の一撃は、大地をいとも容易く切り開いた。あの威力では、身を挺してもアオイを守れるか正直自信はなかった。
「リク先輩も、私を庇ってくれてすごく嬉しかったです。ありがとうございました」
「お、おうっ。リーダーが仲間を守るのは当然だからなっ」
仲間に感謝していたところに礼を言われ、リクは戸惑いながら視線を逸らす。とっさにした行動に対して面と向かって言われると、恥ずかしさが込み上げてきた。
「何イチャついてるのよ」
「なっ、イチャついてなんかねぇよっ」
呆れたようにジト目で見つめてくるミカに、リクは挙動不審に視線を泳がせ。アオイを見ると、恥ずかしい気持ちを持て余すように、指先を合わせてモジモジと動かしていた。
「それにしても、突然二人が地面に弾き飛ばされたように見えたけど、何があったの?」
二人とは別の位置から見ていたユイトが、眉根を寄せながら尋ねる。
先程の位置ならリク達の姿も様子も見えていたはずだが、何も見ていないと告げるユイトに、リクは難しい顔をした。
「あのとき、真横からダ・ヴィンチの声がしたんだ。そんで棒で殴られたような衝撃が」
「そうなんです。何が起きたかわからず、地面にぶつかって顔を上げたときには刃が迫ってきて」
「ふむ。やっぱり透明化して襲ってきたんだね」
リクとアオイの証言に、ユイトは離れた所にいるアンドロイドを見つめた。
「天才の頭脳に描き変えと透明化の能力。本当に手がつけられないわね」
「それでも、ダ・ヴィンチさんを除霊しないと犠牲者は増える。だからこそ、私達は戦うしかないんです」
やれやれと溜息をつくミカに続き、アオイは自分に言い聞かせるように呟く。
「厳しい戦いだけどな。俺達が受けたクエストだ、最後まで責任持って達成しようぜ。それに、ダ・ヴィンチにはたっぷりとお礼しないといけねぇからな」
リクは左腕の力こぶをポンポンと右手で叩いて、ニッと白い歯を見せた。
「うーん。あのアンドロイド、また動いてないみたいだけど、壊れたのかな?」
「変身前のダメージが残ってるなら可能性としてはあるけど、そんな感じには見えねぇな。ダ・ヴィンチも肩にいるみてぇだし」
先程までいた場所を眺めていたユイトは顎に手を当て、リクは視力を増幅して見えた情景を伝える。
「動いたり止まったりを繰り返す。その意味はなんだ?」
壊れたなら完全に停止するはずだ。しかしダ・ヴィンチが肩にいるときには薙刀を振り下ろして攻撃してきた。それを考えると壊れているとは考えにくい。
アンドロイドを動かすには、何かキッカケや動力が必要なのか? いやもしかして……
そうやって思考しながらリクが訝しげに様子を窺っていると、アンドロイドが真っ直ぐに立ち、リク達のいる場所とは別の方向を見つめ。突如身を屈め舞い上がるように大きく跳ねると、公園から飛び出しビルの残骸に着地した。
「まさか、街中に行こうってんじゃ!?」
驚愕を隠せないリクの言葉を裏付けるように、さらにジャンプを重ねてアンドロイドは渋谷方面へと向かっていく。別の場所で破壊活動をされてはマズい。リクは内心舌打ちをしながらも、仲間と一緒に体を宙に浮かせた。
「でも、街中なら建物が障害物になるから、相手の動きも鈍るんじゃない?」
「あれだけの破壊力を持っているので、障害になるかどうか……」
楽観視するミカの意見を、アオイはやんわりと否定する。通常なら建物を盾代わりにも使えるが、あのアンドロイド相手では意味を成さないだろう。
「それについては、あいつと戦ってみて思ったことがある。作戦も考えた。あいつがどこ行く気かわかんねぇけど、今のうちに伝えておくぞ」
着地する度に、被害のなかった建物までをも破壊していくアンドロイド。その姿を苦々しく見つめながらも、リクは三人に作戦を伝えた。
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