第42話 答え合わせ
「それにしても、どうして答えがわかったのよ?」
脅威が去って落ち着いたのか、謎を解いた功労者にミカが興味津々に問いかける。まるで閃くように謎を解いた姿は、はたから見ても神がかっていた。
「私も思いついたことを実行しただけなんですけど、水弾きの良さが鍵だったんですよ」
「水弾きの良さ?」
アオイの説明に〝言っている意味がわからない〟といった様子で、ミカだけでなくリクもユイトも頭にハテナマークを浮かべていた。
「私達は天秤と、水が元々入っていた聖杯、それに水を汲めるカップを見て、空っぽの聖杯に水を入れて釣り合わせようとしてましたよね?」
「そうね。天秤を釣り合わせるならそうするしかないでしょ?」
天秤は物と物を両端に乗せて重さを量るものだ。今回で言うと、片方の聖杯にだけ水が入っている状態だったので、もう片方の聖杯に水を入れて釣り合わせよう、とリク達は何度も挑戦していたのだが。
「それなのに、いくら水量を微調整しても天秤が釣り合うことはありませんでした。それで気になったんです。〝異様に水を弾く聖杯〟というのが」
「それがなんで答えに繋がるのよ?」
丁寧に説明するアオイに〝今すぐ正解が欲しい〟と言いたげにミカが眉を寄せる。そんな仲間に、アオイは意味ありげに言った。
「一般的に、何も乗せていない状態の天秤ってどうなってますか?」
その一言でリクはハッとしてすべてを察する。横を見るとユイトも意味を理解したように、「あっ」と口を開いていた。
「まだイマイチわからないんだけど……」
ただ一人、ミカだけは答えにたどり着いていないようだったが。
「天秤って物の重さを調べる道具ですよね? つまり、何も乗っていない状態で傾いていたら道具としての意味がなくなるんですよ」
「あー確かに、それじゃ正確に量ることは無理よね」
「形の違う聖杯の片方に、水が最初から入っていたこと。いかにも水を入れる用途に見えるカップが置いてあったこと。そのせいで、私達は水を入れて天秤を釣り合わせることが正解だと思い込んでいたんですよ」
その思い込みがダ・ヴィンチの仕組んだ罠なのだろう。
人間は一度こうと思い込んでしまうと、別の見方をするのが難しくなりがちだ。
思い込みによって、進むべき道を間違えたり、自分のほうが間違っているのに他人を否定したりという失敗を犯す。
今回は、アオイだけが先入観を外せたことで〝水を入れても釣り合わない天秤〟という謎を解くことができたわけだ。
「そういうことね。異様に水を弾くのも、水を綺麗に零しやすくするためだと考えれば納得いくわね」
水の一滴で傾くような天秤だ。完全に中身を空にしなければ水平にはならない。そのための加工が聖杯に施されていたのだろう。
「聖杯の形状がそれぞれ違うせいで、余計に思い込みを強くしてたってのもあるんだろうね。二つの聖杯が同じ重さに見えないし」
ユイトの指摘通り、聖杯の形や装飾が違っていたせいで、明らかに重さが異なるように見えた。すべてがダ・ヴィンチの仕組んだ心理トリックだったのだろう。
『楽しんで貰えたかね?』
四人の話を聞いていたのか、全員が理解したタイミングでダ・ヴィンチの得意げな声が聞こえてきた。
「ありがとな、十分楽しませて貰ったぜ。性格悪すぎてムカつくほどにな」
それに対し、リクは片眉を上げて嫌味たっぷりに感謝を述べる。まんまと騙され、命の危機まで感じさせられたのだ。皮肉を言わなければ気が済まなかった。
『それは私にとっては最高の賛辞。創った甲斐があったのだね』
「ご託はいい。謎は解いたんだ、さっさと元の場所に戻しやがれ」
皮肉を皮肉で返すダ・ヴィンチに、リクはイラ立ちを隠さず即座に対価を要求する。用が済んだのならここにいる理由はないし、外の状況も気にかかった。
『新たな謎に挑戦して貰いたい気持ちはあるのだが……約束は守るのだね』
「お前との直接対決だったらいくらでも遊んでやるよ」
謎解きにこれ以上付き合うつもりはない。ダ・ヴィンチを除霊することが最優先事項だ。
『ふむ。ならばそうして貰おうかね』
相手の能力のネタは割れている。直接対決ならば、兵士達と共闘すれば勝てるはずだ。リクはそう思い、直に戦えるよう挑発したつもりだったが。
『ただ、君達がこれに耐えられるかは別問題だがね』
ダ・ヴィンチの意味深な発言に、リクは眉をひそめ。
「それはどういう──うおっ!」
意味を問おうとした瞬間、眩い光が視界を埋め尽くし。
「……なっ……これは……」
光が収まった後、リクの目に飛び込んできたのは、言葉を失うほど衝撃的な光景だった。
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