第37話 水着の神殿

「──眩しっ」


 燦々とした光に、目がチカチカする。

 それでも目を閉じていては危険だと、リクはなんとか薄く目を開けた。


「なんだ……ここ」


 学校のグラウンドが収まりそうなほど、巨大な空間が視界に入る。


 太陽光が降り注ぐ空間は、神殿を思わせる白い石壁が囲み、正面には水に浮かぶ孤島のように祭壇が鎮座していて、床に張られた一面の水には、どこからか吹く風が綺麗な波紋を描いていた。


 ただでさえ突拍子もなさすぎる状況に、リクは驚きが隠せなかったが。


「さっきまで暗闇空間だったのに、なんで太陽と風が──って、へっ!?」

「ちょっと、なんでこんな格好になってんのよ!?」


 それ以上に、全員〝水着姿〟になっていたことに、リクとミカは目を見開いた。


「水上だから濡れてもいいように水着。なるほどね」

「一人だけ何を感心してんだよ」


 合理的だとでも思っているのか、納得顔をしたサーフパンツ姿のユイトにリクはツッコんだ。


「わ、私、ちょっと恥ずかしいんですけど……」


 急に白いレースビキニ姿になったせいか、アオイは赤面して腕で体を隠そうとする。自分で着替えたわけではないのが、余計に羞恥心を掻き立てるのだろう。


「でも、ちょっと可愛いかも」


 対照的に、ミカはグラビアアイドルばりに、赤いビキニを見せびらかすが。


「お前、やっぱりスタイルいいんだな」

「ちょっと、そんなにジロジロ見ないでよ!」


 褒めた途端、今度は顔を赤くして体を捻った。

 感想が欲しそうだったから素直に述べただけなのに、見せびらかした直後に見るなと言う。


 女って……よくわからん。


『君達にはそこで謎解きをして貰おうかね』


 そうやって状況を忘れて四人が騒いでいると、ダ・ヴィンチの声が届いた。


「てめぇ、こんな所に俺達を閉じ込めてねぇで、ちゃんと正面から戦えよ!」

『神殿の中にある謎。それが解けたら外に出られるのだね』


 聞こえているのかいないのか、叫びを無視して勝手に話を進める天才に、リクの心に怒りが沸々と湧いてきた。


「そんなの付き合ってられないわ。クール・スピア」


 〝謎解きなんてまっぴら〟と、ミカが脱出しようと水の槍を壁に直撃させる。


「えっ、なんでよ!?」


 しかし水は壁に弾かれ、穴が開くことも溶け出すこともなかった。


「どうやら、水彩絵の具から〝油絵の具〟に変化させたみたいだね」


 ユイトは術の当たった壁を見つめ推察を口にする。油なら水の効果が及ばないのは自明の理だ。

 だからこそ、水の心現術イマジンが効かなくなったのだろう。


「ブレイズ・エンヴィ」


 素材が油ならと、今度はリクが炎の槍を壁に当ててみるが、一部を大きく溶かすことはできたものの、すぐに復元してしまった。


「謎解きをするしかねぇってことか」

「外で兵士の皆さんが空想妖魔ファンビル達と戦っているはずです。早く加勢に行かないと」


 国に仕える兵士が、国民を脅かす空想妖魔ファンビルを放っておくはずがない。アオイの言う通り、空間の外では死闘が始まっていることだろう。


心霊現象ポルターガイストも無理だわ。外へ跳べない」


 瞬間移動を試みたのか、壁を向いていたミカが首を横に振り、仲間のほうへ向き直った。


「俺の念動力も使えないみたいだし、武器も出てこないよ。使えるのは心現術イマジンだけの縛りプレイみたいだね」


 どうやら空間そのものを描き変えたようだ。

 しかも能力を制限された縛りのある状態。それで謎を解くというのなら、純粋に謎解きをさせたいということだろう。


「上等じゃねぇか。即行でクリアしてやるぜ」


 他に道がないのであれば、全力で駆け抜け突破する。

 そう心に決めたリクは、拳を手のひらにぶつけ気合いを入れた。 


『どうなるか見物しててやるかね。すぐに音を上げて私を退屈させないで欲しいものだね』


 意地の悪い顔が想像できるほど愉悦を含んだ男の声に、リクは負けじと気を引き締める。

 心現術イマジンだけが使えること。ダ・ヴィンチの発言。

 そこから導き出される答えは、この後に起こる展開を予期させ、リクの不安を掻き立てた。


『そろそろ始めるかね』


 まるで審判を務めるかのように、開始の合図をしようとするダ・ヴィンチに、リクはフンと鼻を鳴らす。


『それでは……スタートだね』


 そしてダ・ヴィンチのかけ声で、四人は一斉に水上を駆け出した。


「こんな水、障害にもならないぜっ」


 くるぶしまでの深さがある水辺を、水飛沫を上げながらリク達は走り、スピードを落とすことなく駆け抜け四人が目指したのは。


「ここっきゃねぇだろ!」


 スタート地点から一番奥にあった祭壇だった。

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