第33話 聞き込み
「王様に聞いても進展なし、か」
謁見の間を出て城の廊下を歩きながら、リクは腕を組んで難しい顔をする。
ダ・ヴィンチと戦った後、現状報告がてら情報取得のために城を訪れてみたが、情報が集約されているはずの王のもとにも新情報はなく、リク達は行き詰まっていた。
「ふりだしに戻ってしまった感じですね。これからどうしましょう」
「ネットにも情報はなかったから、また各現場に行って情報を洗い直すしかないかもね」
思い悩むアオイに、ユイトは今後の方針を提案する。
インターネット上にダ・ヴィンチ関連の事件が起きていないか検索もかけてみた。だが、美術館のことはある程度記事にはなっていたものの、それ以降に出没したという情報はまったく見当たらなかった。
「付喪神さんが喚び出せなかった理由も不明でしたし」
現地でのことを振り返り、アオイは考えるように口元に手を当てる。
例の枯れた木は、アオイの
一方、普通の木からはちゃんと付喪神が召喚できたので、なぜ枯れたのか、どうして付喪神が呼び出せないのかまでは、判断材料の不足でわからなかった。
「美術品はすぐに運び出すみたいね」
ミカは王が大臣に命令していたことを口にする。美術館は溶けたものの、中にあった美術作品に被害は一つもなかった。
係員の証言によると、突然ダ・ヴィンチが館内に現れて、何やら喚きながら壁や天井に絵の具を撒き散らした後、建物が溶け始めたようだった。
「今から全部回ったら夜になっちゃうね」
ユイトがスマートフォンで時刻を確認すると、すでに午後四時を回っていた。さらに細かく調査するとなると、暗闇では見えにくいし人もいなくなってしまっているだろう。
「暗くなるギリギリまで調べて、回りきれなかった所は明日の午前中に行くしかねぇな」
敵のことがある程度わかった今なら、新たな視点で物事が見られるし、職員と情報を共有することで別の発見をする可能性もある。
「明日の午後二時までに手がかり見つかるかな?」
「んー、それは賭けだろうな。まだ何かがあるってんならパターン的に明日起こるだろうけど、間に合うかどうか微妙なところだな」
ダ・ヴィンチが何かするなら同じ時刻に行うだろう。それまでに出没現場を特定できなければ、どこかが被害に遭う可能性がある。
しかし、何も情報が手に入らない予感がしたリクは、ユイトに曖昧な返事しかできなかった。
「とにかく、限られた時間でやれることやるしかねぇな」
しかし、推測する手がかりすらない現状では、相手の思考を読もうとするだけ無駄だ。
「まずはすぐ近くにある図書館から行ってみるか」
リクがそう言うと、四人は善は急げと城の外へ出た。
それから三十分後。
「とにかく私にとってお城は、顔の整った男性のような、素敵な建物なんですよ」
「お、おう……」
「あっすみません。本の移送作業を今日中に終わらせなければならないので、そろそろよろしいですか?」
「おっと、悪かったな時間貰っちまって」
「いえいえ。では失礼します」
そう言って、図書館司書の女性はリクに頭を下げて元図書館の奥へと消えていった。
「んー、なんもねぇな」
相変わらず本を運ぶ作業を続けている職員達に聞き込みをしたり、建物自体をより丁寧に調べてみたが、新たな情報は何一つ得られなかった。
前回より詳しく聞き込みをしてわかったのは、女性職員が図書館だけでなく城にも深い愛情を抱いていることだけだった。
「新情報を提供しても、こちらの知らない話は聞けなかったね」
時間を浪費しただけの調査に、ユイトも片眉を上げて溜息をつく。
前回はただ話を聞くだけだったが、今回はこちらから情報をNPC達に与えた。それでも収穫はゼロ。
つまりここでは先のストーリーへは進展しないということなのだろう。
「ここでわかることは多分もうないわね。次行きましょ次」
ミカはまるで一方的に恋愛話を聞かされたように、疲れた様子で肩を落とした。
「あっ、待ってください」
立ち去ろうとする三人に、アオイが制止の声をかける。
「付喪神さんにもお話聞いてみましょう」
「職員に聞いても情報なかったのに、付喪神なんて余計に知らないんじゃない?」
ミカの言う通り、動き回って話のできるNPC達とは違い、自力では他者と会話することも動くことも不可能な木の付喪神が、ヒントになるようなことを知っているとは思えない。
しかしそれでも、アオイは前回と同じ大きな木の幹に触れた。
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