第21話 王の裁量

「罪人って、俺達なんもしてねぇだろ!?」


 一番偉い立場の人間に向かって叫んだリクに、周囲にいた兵士達に緊張が走る。


「構わぬ」


 しかしリクより二回りは年上であろう王が制すと、ゆったりとした口調で尋ねてきた。


「通常はいくつもの手続きを経て謁見可能になるものを、制止する兵の声も無視して乗り込もうとしたそうだな」

「それは……」


 〝RPG世界だから平気だと思いました〟とは言えず、口ごもるリクに王は続ける。


「常識的に考えれば、命を狙う刺客と疑われ、うむを言わさず投獄される者達を〝罪人〟と呼ばずになんと呼べば良いのかな?」


 リクは〝幽霊なんだからこれ以上死なねぇだろ〟とツッコミたくなったが、言い返せないほど重みのある物言いと雰囲気に、なんとか言葉を飲み込んだ。


「聞くところによると、私の出している依頼を受けに来たとのことだが?」


 まるで相手の思考を読もうとするかのように、王はジッとリクのことを見つめる。


「そ、そうだぜっ。解放者リベレーターとして依頼を受けに来たんだよっ」


 自分の無実を主張しようと、〝嘘はついていない〟とリクは自信を持って答えるが。


「ふむ。確かに依頼を出してはいるが、本当に依頼を受けに来たという証拠はないな。何か証明するものはあるか?」


 王は試すように証拠提示を求めた。


「依頼内容を話……しても、依頼を受けに来た証明にはならねぇよな……」


 証拠を突きつけようにも、証明できる材料が手元に一切ないことに気づきリクは唖然とする。かといって適当な嘘をついてバレれば、本当に投獄ということも有り得た。


 ……あれ? これって何気にマジでピンチじゃね?


 気楽に訪ねてきたはずが、いつの間にか死活問題になっていたことに、リクの頭の中は真っ白になった。


「どうした? まさか本当にどこかの刺客なのか?」


 本気で疑いだす王の言葉に、周囲の兵士にもどよめきが拡がり始める。


「いや違ぇけど……」


 何を言えば良いのか、何を言ったら悪いのか。ゲームならば勝手に話が進むか会話の選択肢が出るものだが、リアルRPGにはそういった親切設計はなかった。


「えっと……その……」


 周囲の視線がどんどん仇を見るように変わっていく中、リクは頬に一筋の汗が流れるような錯覚を感じた。そのとき、


「お戯れを。賢明な王ならば、私達が刺客などではないこと、すでにお気づきでしょう?」


 横にいたユイトが凛とした声で〝俺達で遊ぶのはやめてください〟と主張した。


「ほう。いかにしてそのような思いに至ったのだ?」


 その一言に興味を持ったのか、王は体を前傾させると、ユイトに話の続きを促した。


「本当に刺客ならば、堂々と正面から素顔を晒しながら現れるなんてこと、よほどの自信家かバカ以外あり得ないでしょう。しかし私達はさしたる抵抗もなく捕まり、目の前に王がいるのに実力行使もせず大人しくしている。常識的に考えて刺客とは判断されにくい私達に、刺客でないと証明させようとする行為。戯れ以外にどんな理由がありますか?」


 理路整然と自信を持って答えるユイトに、その場にいる全員の視線が集まっていた。


「世間では重要建造物が溶けるという事件が発生し、王だけではなく民も困っているはず。余裕のあるときならばいざ知らず、非常時に時間を浪費していてはもったいない」


 そう言ってユイトは立ち上がると、舞台役者のように豊かに表情を変え。


「しかしなんの許可も得ず、謁見しようとしたことは無礼であったと感じております。誠に申し訳ありません」


 深々と頭を下げると、三人も合わせるように慌てて頭を下げ。


「誰もが早急の解決をお望みのはず。であれば、時間を互いに有益なものへ変えましょう」


 最後には満面の笑みで締めくくった。

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