第22話 人生の岐路

「……なるほど」


 納得してくれたのか、王は背もたれに身を預け目を閉じる。

 現実の王であれば、例え王が許しても、そんな説明で無罪放免にすることはあり得ない。それでは法律の意味がなくなるし、王の越権行為にもなってしまうからだ。しかし、 


「見事な論説であった。戯れがすぎた、許せ。代わりにお主達の無礼も若さ故の暴走として、今回は大目にみよう」


 NPCの王は、絶対的な権力によって罪を不問とし、兵達に四人の拘束を解かせ。


「それに、大胆な行動力を持つ者は私の好きな人種でな。久し振りに興味を唆られた」


 罪人から一転、客人を迎えるような柔らかい表情でリク達を見やり。


「そこでだ。その行動力と知恵を活かして、我が国の問題を解決してはくれぬか?」


 待ち望んだクエストの依頼内容について話し始めた。


「近頃、城下町にある国の重要施設が次々に溶けるという事件が発生しておってな。その原因究明と解決を頼みたいのだ」


 打って変わって、神妙な面持ちで語る王に、アオイが確認のために尋ねる。


「犯人がなかなか見つからないと聞いているのですが」

「恥ずかしながらその通りでな。国の施設だけが被害に遭っておるし、自然現象では起こり得ないことなので、心霊現象ポルターガイストによる人間の犯行とみて捜査しているのだが難航していてな。今は人手が欲しいのだ。お前達以外にも依頼した者達はいたが、思うような結果は出ていない。もちろん事態収縮に貢献すれば、十分な報奨は用意するつもりだ」

「なるほど。今は猫の手も借りたいってやつだな」


 王の言葉にリクの口角が上がる。解決に至れば、王から直々に成功報酬が貰える。となれば悪い話ではない。


「捜査に協力している解放者リベレーター達が失踪しているとも聞きましたが」


 ユイトの指摘に、王は難しい顔をして溜息をついた。


「事件の捜査に人員を割いている関係上、失踪者の捜索が後手になっているというものあるが……城下町にいる兵や市民からも、発見に至ったという報告は届かぬのだ」


 誰も見ていないということは、遠い所に行ったのか、何かに巻き込まれたのか。


「兎にも角にも、事件の犯人、失踪者の行方、何もかもが依然として手がかりもなく未解明なままなのだ。この状態が続けば国の運営もままならず、国民にも不安が募り心労を重ねるばかり。故に、できる限り多くの者の力を借りたいのだ。不安材料が多いのも重々承知。そこを曲げて、協力して貰えないだろうか。頼む」


 そう言って頭を下げた王に、周囲にいた兵や大臣達に動揺が走る。

 一国の王たるものが一般市民に頭を下げたのだ。王の威厳を損なう行為と見られてもおかしくはない。

 そんな王の姿を四人が見つめていると、リクの目の前に半透明のウインドウが開き、白い文字が薄く光りながら浮かび上がった。



【王からのクエストを受けますか?】


 一、はい

 ニ、いいえ



「〝人生の岐路フェイト〟が出ましたね」


 アオイが画面を覗き、嬉しそうに顔を緩める。

 一時は投獄されるかとヒヤヒヤしたが、これで安心してクエストが受けられるな。


「鬼が出るか蛇が出るか。それはわからねぇけどよ」


 リクは画面を見つめてから顔を上げ、王の顔を真っ直ぐ見据えると、


「その依頼、俺達が引き受けるぜ」


 不敵な笑みを浮かべながら〝はい〟に触れた。


「ありがたい。それなら早速捜査に着手して貰いたい──兵隊長。この者達に必要な情報を提供し、事件の解決に当たらせよ」

「承知致しました!」


 王からの命に、全身鎧を着た兵隊長は敬礼をして、リク達を謁見の間の外へと案内する。


「そなたらの活躍と無事の帰還、待っておるぞ」


 立ち去る四人の背中にかけられた王の一言。それを聞きリクは立ち止まって振り返ると。


「おう! 期待して待っててくれよな!」


 白い歯を見せて親指を立てた。

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