第20話 代々木公園

 代々木公園。

 そこは渋谷区にある、緑豊かな水辺やサイクリングコースがある憩いの場。

 原宿駅の横に位置し、親子連れが森林浴をしたり、若者がスポーツやイベントで汗を流したりする、都内有数の大型公園だ。


「でけーなー」


 公園内にある中央広場。そのど真ん中にそびえ建つ巨大な城を見上げ、迫ってくるような壮大さにリクは感嘆の声を漏らした。


「すっげぇ金持ってんだろうなぁ」


 声が反響しそうなほど高い石壁が自己主張をし、何人もの兵士が空も地上も隙間なく監視していて。両脇には切り立った高い塔が権威を象徴するように、荘厳な佇まいを覗かせていた。

 日本の風景とはどう見ても不釣り合いで、いかにも〝魔王が住んでいます〟と特大広告を出しているような様式は、遠巻きに見ている人達に十分な威圧感を与えていた。


「お城ってこんなに大きいのね」

「小さな城なんて威厳も何もねぇけどな。ってか、ここ魔王の城とかじゃねぇよな?」

「確かに明るい感じはしないわね」


 呑気に門の前から城のてっぺんを見上げようとして、ミカとリクは首を九十度近く曲げる。だが、二人の横を全身鎧を着たNPCの兵士達が通りすぎていくのだから、どう考えても魔王の城のはずはなかった。


「ほら、突っ立ってないで行くよ」

「先に行っちゃいますよ」


 保護者よろしく、ユイトとアオイが揃って先行すると、リクとミカも慌ててついていく。


「うわー、こんな城住んでみてぇ」


 中には兵士以外にもメイド服の女性や貴族のような人達もいて、まるで中世にタイムスリップしたかのような錯覚を覚える。

 さらに赤い絨毯が敷き詰められた広間を進むと、上階へと続く大階段が正面にあった。


「さてと、さっそく依頼出してる王様に直接話を聞きに行くか」

「…………え?」


 リクがさも当然のごとく告げると、リーダーの頭を疑うミカの視線が突き刺さった。


「お、王様って、普通の人はすぐに会えないんじゃないですか?」


 さらにアオイも不安げな表情を浮かべるが、リクは全く意に介さない様子で。


「二人共まだまだ甘いな。RPGの世界では、王様には無条件で会えるのが常識なんだよ」

「……そういうものなの?」


 RPGをしたことがないミカは、逡巡するように頭を捻り、ユイトの顔を窺った。


「そうだね。通常は問題なくすぐに謁見できて、そのまま話を聞いてクエストスタート、ってのが文字通りの王道パターンだね」

「だろ? 王様に会うところから始まるゲームだってあんだから、まずは王様にパパッと会って依頼内容詳しく聞いて。んでもって晴れてスタートってわけよ」


 ユイトの後押しもあり、リクはベテランの気持ちで意気揚々と講釈を垂れた。


「へぇー、そういうもんなのね。王様なんて言うから、無遠慮に会いに行ったら、捕まって牢屋にでも放り込まれるのかと思ったんだけど」

「ないない。俺達なんも悪さしてねぇし、捕まる理由なんてねぇよ」


 通常ならあり得ない手順に関心を寄せるミカに、リクは手を振って苦笑した。


「それなら安心ですね。ですが、事前に誰かに話を通しておかなくていいんですか?」

「へーきへーき。ちゃんと依頼を受けに来たんだ、面倒くせぇこと抜きで乗り込もうぜ」


 それでもなお心配を重ねるアオイだったが、先行してノリノリで大階段を上り始めたリクに付き従い、一緒に謁見の間の扉を開き。


 逮捕されました。


「なんでだよおおおおおおおおおお──ッ!!」


 いくつもの視線が向けられる中、リクの声が謁見の間に虚しく響き渡る。


「リ、リク先輩。私達大丈夫ですよね?」

「うっ……だ、大丈夫だ。これもクエスト受注前のイベントか何かのはずだから……」


 大手を振って自信たっぷりに宣言した手前〝大丈夫じゃない〟とは言えず、リクは内心冷や汗をダラダラ流しながら視線を泳がせる。そんなリーダーの様子を、ミカは氷のように冷たい目で見つめていた。


「……で、ここからどうなるのか教えて欲しいわね、リクくーん」


 言い回しに狂気を感じ、気持ちはザザザッと部屋の隅まで後退るリクだが、拘束されて兵士に囲まれている状況ではそれも叶わなかった。


「な、なんとかなるって、マジでマジで」


 自信満々に言っておいて、牢に入れられたら洒落にならない。リクは状況を打開しようと必死に思考を巡らすが、焦っているせいで何も思いつかなかった。


「まぁ、なんとかなるでしょ」


 縄で両腕を縛られ、床に跪かされている状況にも関わらず、ユイトが呑気に視線を上げた。そこには、


「話は終わったかな? 罪人達よ」


 道を示すかのように敷かれた赤い絨毯が導く先。一段高くなった石床の上にある玉座に、威厳を示すような黒い服を着た〝王〟がいた。

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