第19話 愛しき妹へ
「新たに発生した限定クエストですかね?」
レストランの奥へと消えていくウルマを見送り、アオイが開口一番に言う。
「代々木公園にクエストはなかったんだろ?」
「そうだね。周回クエストならまとめサイトに載ってるだろうから、限定クエストってことになるね。だったらちょっと急がないとね」
リクの指摘にユイトは視線を落とし、まだ手に持っていたスマートフォンをスワイプする。
何度も受注できる周回クエストとは違い、達成されたら発生しなくなる限定クエストは早い者勝ちだ。
他の誰かが先にクリアすれば、たとえ同じものを進行中でも失敗したことになり途中破棄されてしまう。
「代々木公園にお城があって王様がいたら、SNSで話題になってるわよね」
「だろうな。建物融解事件もそうだし、一つのクエストで何組もの
ミカとリクの言うように、聞かされた内容を四人は一切聞いたことがなかった。
ということは、ウルマがキッカケでクエストが新たに発生し、公園内に城が生まれ王様が鎮座したということになる。すぐに、ネット上に画像つきで情報が流れて話題になるだろう。
なぜそんなことが言えるのか。それはウルマが人間ではなくNPCだからだ。人間に話を聞いてもクエストは発生しないが、NPCであるウルマに話を聞いたことで、今までなかったクエストが発生したということだ。
「でも、直接話は聞きに行くんでしょ?」
「もちろん。せっかく俺達が一番に聞けた情報だしな。準備ができたら出発しようぜ」
ユイトの確認にリクは楽しそうに頷く。最初に情報を知ったとしても、城の近くにたまたまいた
「よし、今後の方針が決まったってことで、出発する前にちょっと話してくるわ」
三人にも意思を確認し心が決まったリクは、いつもの日課をしようと席を立ち上がる。
「そうですね。皆さんもそのほうがいいですよね?」
アオイが同調し尋ねると、ユイトとミカも頷いた。
「じゃあ準備ができたら外に集合ですね。慌てずゆっくりでいいですからね」
全員を気遣うアオイに、リクは「さすができる後輩」と言って、レストランの奥にある廊下から階段を上り二階へと向かう。
モイライはレストラン以外の部分が
「じゃあ後でな」
リクは隣部屋のミカとユイトに扉の前で声をかけると、自室の扉を開けた。
「お邪魔します」
律儀に挨拶をしながらリクと一緒に部屋に入るアオイに苦笑しつつ、リクは生活感零れる室内を通り、奥にあるもう一つの扉の前に立つ。
そして心の準備をしてそっと木の扉を押すと、扉は小さな軋み音を立てながら奥に向かって開いた。そこには、
「ユキナ、挨拶遅れて悪かったな」
「ユキナちゃん、おはよう」
窓から差し込む光を全身に浴びて立つ──妹の石像があった。
「兄ちゃんな、今日もクエストに挑戦してくるぜ」
灰色に染まった妹に近づき、リクはポンポンと肩に触れる。
しかし、伝わってくる感触は無機質で硬かった。
「お前がこうなってから三ヵ月経っちまったけど、やっと
あの日、リクは妹を奪われたが、ミカは兄をユイトは母を奪われた。今は同じように、自室でこうやって家族と話していることだろう。
「ユキナちゃん、私達頑張ってるから安心してね」
アオイもユキナの手に触れ、励ますようにそっと握る。
「最近は石化する人も減ってきて、クエストもどんどん達成されていってるみたいだよ」
現在はこの世界の情報が知識となって浸透しており、人間の
しかしこれも〝霊化の日〟に、NPCの
「まだ解放された区はないけど、皆を元に戻してあげることも近いうちにできるかも」
「早く解放してやりてぇな。父さんも母さんも外で待ってるし、自分達の家に帰ってやらねぇと。母さんなんて心配して毎日連絡してくるもんな」
実家は隣の県にあったために難を逃れたが、連絡はできても結界のせいで触れ合うことはできなかった。
「結界もですけど、まずはユキナちゃんを、ですね」
「そうだな、あの人懐っこい笑顔をまた見てぇよな。まぁ家でも学校でもいつも『お兄ちゃんお兄ちゃん』って側にいるから、周りの奴らにシスコン呼ばわりされて大変だったけどな。それでも、今も毎日こうして話してるんだから仕方ねぇかもだけど」
「それだけユキナちゃんのことを大切に思ってるってことですよ」
恥ずかしそうにするリクに、アオイは温かく微笑みかける。
兄妹ではあったけれど、年が一つしか違わなかったせいか、一緒に服を買いに行ったり遊園地で遊んだり。見た目が似ていなければ恋人同士にも見えたかもしれない。
「だからよ、また二人で──いや、三人で一緒に美味い飯食って、遊んで。それこそどっかに旅行なんてのもアリだよな」
「ミカ先輩とユイト先輩も入れて、五人ですよ」
アオイの指摘にリクはヘヘッと笑う。そんな兄の目に映る妹の顔は、動かないはずなのに柔らかく微笑んだような気がした。
「早くしないと俺も大人になっちまって、社会人として仕事始めて。昔みたいに構ってあげられなくなっちまうかもしんねぇしな。まぁ、行くはずだった大学も通えなくなっちまったから、それまでの期限は伸びたけどな」
大学を卒業して普通に就職して、いつかは結婚して子供ができて。そんな当たり前に思い描いていた未来も、今となってはどうなるかわからなくなってしまった。
「やっぱり、お前と一緒に笑ってる未来が一番いいよ」
妹を見つめるリクの顔は、嬉しそうにも寂しそうにも見えた。
「だからこれからは、ひたっすらに走り続けて全部の区を解放して、そんで」
そう言ってリクはグッと胸の熱を飲み込むと、
「ぜっっっったいに、お前のこと元に戻してやるからな」
「うん。だから安心して待っててね、ユキナちゃん」
アオイと一緒に飛びっきりの笑顔を妹に向けた。
「じゃあ行ってくるぜ」
「行ってきます。また後でね」
そして二人は手を振って静かに部屋を出ていく。
リクにとっては妹を、アオイにとっては親友を取り戻すための戦い。
どのクエストが解放の鍵となるかは誰にもわからない。それでも、ユキナを助けるためにすべてのクエストを自分達で達成する勢いで挑む。
そう心に誓った想いを胸の奥で燃やし続ける二人。
そんな二人の背中を、無機質で静かな瞳はただ真っ直ぐに見つめていた。
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