第11話 モイライ
「おっ、モイライってあれじゃない?」
眼下に見えてきた多摩川。その河川敷に大きな建物を発見し、ユイトが指を差す。
四人の視線の先には、サッカー場が二つは入るほどの広さに建つ、三階建ての石造りの建築物があった。
「こんな建物、前はなかったですよね?」
「川沿いにこんな大きな建物ができたら、さすがに噂くらいにはなるはずよね」
アオイとミカが空中で止まり、少し離れた位置から建物全体を眺める。
「念のために裏側も見ておきてぇな。ちょっと一周してくる」
リクは三人を待たせて一人で上空から裏手に回り、川の真ん中辺りから建物を見下ろし。
「別段、おかしな所はねぇ──なっ!?」
急に何かが背中にぶつかった衝撃に、リクは反射的に振り返った。
「リク先輩、どうしたんですか?」
異変を感じ寄ってきたアオイに、リクは空中を不思議そうに手で触りながら答えた。
「なんかここに見えない壁みたいなもんがあるんだよ」
「壁ですか?」
アオイも訝しげに横に並び、そっと手を伸ばす。
「確かに、ガラスに触っているような感じがしますね」
「どうやら広い範囲を覆ってるみたいだね。この先に全然進めないよ」
ゆっくりと上下左右に移動しつつ、ユイトは壁がどこまで続いているか探る。しかし切れ目を見つけられなかったのか、諦めたように頭を振って合流してきた。
「殴ったら壊せるんじゃないの? ちょっと退いてて」
あっけらかんとして拳に手甲を出現させ、ミカは思いっきり不可視の壁を殴りつけるが。
「うーん、駄目みたい」
たわみはしたものの、広範囲に波紋が広がっただけでビクともしない様子に、ミカは手のひらを上に向け肩を竦めた。
「もしかしたら、ジェイク達が言ってた結界ってやつかもね」
壁の正体に思い当たり、ユイトが顎に手を当てて壁の先に視線を送った。
「この先に行けないなら仕方ねぇ、今はモイライにいるオーナーってのに会ってみようぜ」
危険はなさそうだと、リクは声をかけてから先行し、建物の正面へと下りていった。
「こうやって見ると、でけぇな」
建物を正面から見ると、二階と三階に多くの窓が並び、一階は高い位置に横長の採光用の窓がはめ込まれており。正面入り口の木の扉、その上に装飾された三体の女神のレリーフが客を出迎えるように鎮座していた。
「初めて入る建物ってのはちょっと緊張するな」
ただの建物ではなく、新たに出現した未知の建造物ということも相まって、リクは胸が高鳴るのを感じていた。
「よし、開けるぞ」
リクは短く息を吐き意を決して取っ手を掴むと、力強く手前に引いた。
「想像してたより綺麗で落ち着く内装ね」
窓から差し込む陽に照らされた室内。建物のごく一部なのだが、その広さは学校の体育館ほどもあり、並べられた数多くの木製の丸テーブルと石壁が見事な調和を見せていた。
「レストランですかね? 誰もいないみたいですけど」
開店前なのか人の姿は見当たらず、周辺住人が建物を見に来ている様子もない。
「すみませーん。誰かいませんかー?」
ユイトが呼びかけた声が室内に反響する。だが人が動くような気配はなかった。
「おっかしいな、ここにオーナーがいるって聞いたんだけどな」
自分の聞き間違いだったかとリクは三人に視線を送るが、全員〝確かにそう聞いた〟と言いたげな目を返してきた。
「誰もいないんじゃ仕方ねぇな。オーナーが戻ってくるまでここで休ませて貰うか」
どこに行ったかわからないが、いつかは帰ってくるだろう。そう思って手近な場所に腰かけようと、リクが椅子を引いた瞬間。
「あら、お客さん?」
「うおっ」
いきなり背中から誰かに抱きつかれ、リクはビクンと体を跳ねさせた。
「えっ? きゅ、急に女の人が!?」
「だ、誰よ!?」
リクに絡みつく人物を見て、アオイが後退りミカが身構える。
すると紫のドレスを着た長い金髪の女性は、リクから離れ妖艶な笑みを浮かべた。
「ごめんなさいね。随分と若い子達が来たから、ちょっと驚かせようと思って」
「だ、誰なんだよ」
腕から解放された瞬間立ち上がり、向かい合わせになって正体を問うリクに、女性は色気を感じる声で答えた。
「私はウルマ。このモイライのオーナーよ」
幽霊のはずなのに、未だに心臓がドキドキするリクに、ウルマは首を傾けた。
「じゃあウルマさんが、ジェイクさんとルナさんの言っていた」
「あら、あの二人の
緊張しているのか、胸に手を当てながら確認するアオイに、ウルマは柔らかく微笑んだ。
「二人とはさっき知り合ったばかりだけどね。というか、その
状況を受け入れたのか、初めて聞く単語の意味を尋ねるユイトを、ウルマは興味深そうに見つめた。
「
「そうか。さっきの壁は、俺達を外に出さないための結界だったってことだね」
話の端々から新たな情報が得られ、徐々に全体像が見えてきた。今なら時間もあるしウルマという情報提供者もいる。ならば、
「幽霊にされたり、結界が張られているのは23区内だけで、他に
リクは一番聞きたかった疑問を口にした。
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