第12話 クリア条件

「幽霊にされた人間がいるのも、空想妖魔ファンビルが現れるのも結界の中だけよ。そして結界によって内外を行き来できなくなったのは人間と霊体のみ。だから外にはなんの影響もないわ」

「マジか。なら家族は大丈夫だな」


 リク達四人の家は区外にあり、家族も仕事や生活を区外で行っている者が大半だ。あの時点で結界外にいれば身の安全は問題なさそうだと知り、リクは安堵した。しかし、


「バカ兄貴、無事だといいけど」

「俺の母さんも大丈夫かな」


 ミカとユイトは不安を零す。ミカの兄は大学に、ユイトの母は仕事で区内に通っており、巻き込まれている可能性が高かった。


空想妖魔ファンビル達が暴れているけれど、ここにいた解放者リベレーター達も全員除霊に向かってくれているから、夜までには落ち着くと思うわ。そうすれば家族や友人の安否もわかるでしょう」

「どうりで誰もいないわけですね。皆さん無事に戻ってきてくれるといいんですけど……」


 ウルマの言葉を受けて、会ったこともないNPCのことを心配するアオイに、リクは相変わらずだなと感じた。


「なら、待ってる間に知っていることを教えて欲しい。俺達〝来訪者〟ってやつらしくて、突然こんな状況になってわけわかんねぇんだ」


 ウルマもNPCの一人であることは明白だ。だからこそ、リク達の知らない情報も当然持っているだろう。


 今は正確で詳しい情報をNPCから得る必要があると、リクは来訪者であるという設定に倣って教えを請うたが。


「もちろんよ。宿と食事を提供するのがこのモイライだけれど、人間に情報提供をすることも、NPCとしてオーナーを任せられている私の役目でもあるから」


 ウルマから告げられたあり得ない一言に、リクの思考が一瞬停止した。


「え、NPCとしてオーナー……ってそれ、NPCとしての自覚があるってことか!?」


 聞き間違いではないかと、リクは重要な部分を聞き返す。


 本来、ゲームであれば自分がNPCであること、つまり〝誰かに創られた存在〟であることを知っているはずがない。


 それは、自分が何かの目的のために作られたロボットやクローンだと自覚していることと同義であるからだ。


「そうよ。私が生まれた目的も、何を求められているかも知っているわ」


 どこか寂しそうな目をしながら断言するウルマに、リクは息を飲む。もし自分が同じ立場であれば、どれほどのショックを受けるだろうか。


「じゃあジェイクやルナも……」

「あの二人にその自覚はないわ。正確に言うならば、ほとんどのNPCには自覚も理解も不可能よ。私と、各区の似たような施設にいる子達のみ、自分の立場を把握しているわ」


 幸か不幸か、本人達がどちらに捉えているかは不明だったが、ウルマの表情を見てリクの胸はグッと締めつけられた。


「それなら聞きたいことがあるんだけど。誰がどうしてこんなRPGの世界にしたの?」

「──ユイト!? いくらなんでもそれは」


 相手の立場を知りながらも真意を問う言葉に、リクが非難の声を上げる。ユイトの質問は〝あなたの生みの親は何故こんな酷いことをしているのか〟と、子供に聞いているに等しいからだ。


「彼女の気持ちは彼女にしかわからないし、俺達がどうこう言える立場でもないよ。だったらまずは、生き残るために情報を得るのが先。ウルマも気遣われるほうが嫌でしょ?」

「そうね。私達のことで辛い思いをされるより、普通に関わってくれるほうが嬉しいわ」


 非情になれと言っているのではない。人間同士でも譲れない想いや立場がある。だからこそ、立場を尊重しようとユイトは暗にリクに伝えていた。


「……わかった。今必要なのは情報だ。俺達が知るべきことを教えてくれ」


 すぐに受け入れられはしないが、なんとか受け止めつつリクは教えを請う。その言葉にウルマは柔らかく微笑むと、ゆっくり話し始めた。


「まず謝らなければならないのだけれど。私達も、誰がなんの目的でこの世界と私達を創ったのかはわからないわ。神が人間をどうして生み出したのか、誰も知らないのと同じようにね」


 世界を創った創造主と言える存在に直接聞かない限り、想像することはできても意図までは理解できない、というわけか……


「すべて把握しているわけじゃないけど、明らかにRPGをベースにしてるよね。敵とか能力とか、どう考えてもゲームにしか見えないし」

「ゲームなら必ずクリア条件があるはずだ。永遠にアップデートされるなら無理ゲーだが」


 ユイトの言葉を肯定しつつ、リクが視線で問うとウルマは静かに頷き。


「石化された人間を元に戻し、奪われた体を取り返して蘇生する方法はただ一つ。解放者リベレーターとなって23区すべての結界を解くことよ」


 真剣な眼差しで、元の世界を取り戻す方法を告げた。

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