第4話 現れた脅威
「まずは状況を把握しなきゃだな」
リクは光の戻った瞳で校舎を振り仰ぎ周囲を見回す。
体育館は建物の裏側にあるせいで様子を窺うことはできなかったが、周囲の状況は大まかに掴めた。
「逃げ延びた生徒や先生、保護者の方々が集まっていますけど、他の場所に移動しても大丈夫なんでしょうか」
「あんな化け物がここだけに現れたとは考えにくいな。この状況を見せられちまったら」
リクは難しい顔をしながら、街中に佇む大勢の幽霊達を眺めた。
「ただ、化け物が近くにいるってわかってる場所に、いつまでも留まるのは得策じゃねぇな。一旦どこか高い建物に移動して、周囲を確認しよう。アオイ、手伝ってくれるか?」
「はい、もちろんです。先輩と一緒に私も頑張ります」
リクの申し出にアオイは即答する。誰もが混乱してしまうような状況のとき、アオイは芯の強さを持って行動してくれる。力強い言葉と支えに、リクは心から感謝した。
「リク! アオイ!」
そして二人で歩き出そうとしたとき、校舎の中から男性の声が届き、同じクラスだった親友の男女二人組が校門へ駆けてきた。
「ユイト、ミカ。お前らも無事だったんだな」
二人の姿を見てリクは嬉しそうに、声をかけてきたダークブラウン髪の長身男性──ユイトを迎え入れた。
「巨大な蛇なら狭い廊下は通れないだろうからって教室に隠れてたんだけど、リク達が校門にいるのが見えたから、ミカと一緒に走ってきたんだ」
切れ長な目を細め笑みを浮かべるユイトに、リクは「さすが」と苦笑した。
「ユイトがいなかったら私、死んでたかもしれないけどね。生きてて良かったわ」
ライトブラウンのショートヘアを揺らし、ミカと呼ばれた女性はハァと息を吐く。
「もう俺達、死んでるみたいだけどね」
「そ、そうかもしれないけど、無事だったって意味で言ってることくらいわかるでしょっ」
こんな状況でも明るい調子でつっこむユイトに、ミカの猫目は動揺に揺れた。
「そうだ、お前らもついて来てくれっか? ここにずっといるのも危ねぇし、俺達はこの現状をなんとかするために動こうと思ってんだ」
再会の喜びもそこそこに、今は人手が欲しいとリクは二人に協力を求める。
「何をするのかわからないけど、やれることがあるなら手伝うよ」
「こんな所でジッとなんてしてられない。友達が石にされたのを放っておくなんてできないわ」
するとユイトもミカも、力を貸すことを快諾してくれた。
「わりぃな。まずは他の場所がどうなってるか把握してぇ。だからとりあえず周囲の状況が見える高い所に……」
そう口にして、学校近くにある一番高いビルを振り仰ぎ。
「あれは……くそっ、こっちに向かってくるぞ!」
太陽光を遮り、翼を広げ急降下してきた巨大な影にリクは注意を促すと、周囲の人間は一斉に逃げ出した。
「こんなのもいるのかよ」
道路に降り立った影は、鳥にも獣にも見える一軒家の大きさほどの化け物だった。
「な、何よこれ! でっかい蛇の次はでっかい鳥!?」
翼を折り畳み、地面の上を肉食獣のように歩く化け物にミカの声は震える。
「鷲の上半身にライオンの胴体……グリフォンってやつだね」
見た目の特徴から、ゲームに出てくるグリフォンそのものだとユイトは瞬時に判断した。
「まるで世界がRPGになったみてぇだな」
幽霊、化け物、石化。日常では有り得ない現象と生物に、リクはゲームの中に入り込んでしまったのかと呟いた。
「あながち間違いじゃないと思うよ。グリフォンの頭上に目を凝らしてみて?」
ユイトの指摘に、リクは相手の頭上に視線を向ける。するとRPGでよく見かける、生命力を示すような青いバーがグリフォンの上に現れる。視線をズラすと、ミカやユイトの頭上にも同じものが現れた。
「マジかよ。異世界転生ものやRPGは好きだけど、自分の世界が異世界になってRPG化するのは予想外すぎるぞ」
相手を刺激しないように動きを止めつつ会話する二人を、グリフォンは様子を窺うようにチラチラと眺める。
「こいつに狙われてる状態だと、ビルの中は逃げ場が無くなるな。グリフォンの通れなさそうな狭い路地に逃げるぞ」
鶏は三歩で直前のことを忘れると言うが、鷲とライオンのハーフに同じことが適用されるとは限らない。
警戒しつつ路地へ逃げ込めば助かるかもしれない。
幸い幽霊になったからか、会話するための呼吸は必要でも、生命維持の呼吸は不要なようで、走り続けていても息切れはしなかった。
「合図したら一気にあそこまで走るぞ」
リクは目線だけで近くの路地を差し、頭をキョロキョロと動かしているグリフォンの動きを注視する。タイミングを外せば、逃げる背中を狙われて命取りになりかねない。
慎重に頃合いを見計らって。
「──今だ」
グリフォンが四人を見据え、攻撃しようと頭を上に反らした瞬間、リク達は一斉に全速力で走り出すと、四人が直前まで立っていた場所にグリフォンのクチバシが突き刺さり、コンクリートに大きな穴を開けた。
「振り返らず走れ!」
リクが全員を鼓舞し先頭を駆ける。チャンスを逃したら後はない。
他のことは考えずに、安全圏に駆け込むことだけを思って足を動かした。
「リク、ストップ!」
しかしゴール直前と思っていた矢先、ユイトが待ったをかける。
それに反射的に急ブレーキをかけたリクが理由を尋ねようとすると、水滴の形をした風船のような、人の胸の高さほどもある化け物が、目指していた路地からわらわらと踊り出てくるのが見えた。
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