第26話

まずい、離れられない。

俺は今、謎の男に時間稼ぎをされている。

殺す気がないのが幸いだが……。


「素直に通してほしいんだけどな……」

「基本的に女性の願いは聞くんだけどね。聞けないことも有るんだ」

「あらそうですか……!」


【合成】はなるべく使いたくない、一撃必殺なんて過剰にもほどがあるからな。

刺客であるなら使ってもいい、なんて特別例を作ってしまったら、なんだかんだ言い訳をして人を殺めてしまうかもしれない。それはラノベにはないことであるし、人間として許したくない。

だがしかしここで時間を取られ続けていると、キズカの生命に関わるだろう。

彼と同じ実力、もしくはそれ以上の力を持った刺客がキズカの方に行っているであろうし、早く加勢に行きたいところだ。

考えつつもハルバードをなんとか避けていると、男が口を利いてきた。


「ずいぶんと体捌きがいいですね。誰かに師事してました?」

「してたとしても、貴方に言うわけがないでしょ?」

「それもそうですね」


クッソ、なにもないかと思ってよく使っている愛用武器は控室の中だ……。

一応短刀は携帯してはいるが、そこまでうまく使えるわけではない。こんなことならアウラムにしっかり習っておくべきだったな。


「せめてアウラムくんがいれば……」

「ほう、都合よくヒーローが来てくれるとでも?」


こいつは殺しにきている、それは男の一見すると優しそうに見えるが狂気を孕んでいる目を見ればわかるし、先程のやり取りで邪魔者認定されたであろうからな。

やはり【合成】を使うべきなのだろうか。いや他の方法もあるのかもしれないが、咄嗟のことでできるものとなると数は少ないだろう。

男のハルバードは依然ブンブンと振り回されていて、ジリジリと後退するも、もう何度か肌をかすめてしまっている。

服破けるの恥ずかしい、と思っている自分がいたりするが、戦闘中ということを脳に言い聞かせることでむりやり無視した。


「さて、そろそろ終わりにしましょうか」


そのセリフと同時に、男の魔法子が爆発的に放たれる。それら魔法子はポチョン、と水音のようなものを立てると、一気に水玉が空中に浮き出した。


「僕の魔法、【水流操作ウォータープレイン】さ」

「なかなか緻密な魔法子操作ね……貴方、さっきからのハルバードさばきといい、相当の手練れだよね」

「それは関係ないこと、ですよ」


その瞬間、生まれた水玉たちが俺へと殺到した。

そしてその光景を見て、俺は一つ思いついた。

多分、あの魔法は空気中の水蒸気を魔法子の力によって固め、水として生成、そのまま操るというものだろう。

であれば、俺もできるのではないだろうか?しかも、やっていることは【合成】のバリエーションでしかない。

ぶっつけ本番だけど、やってみるか。


「【合成・水アッセンブル・ハイドロ】!!」

「なっ!?」


俺の想像通りだった。相手が使っていない部分の空気から水蒸気を抽出、そして壁状に結合させることによって、水の壁を瞬間的に作り出した。

迫ってきていた水の弾丸は、水と水がぶつかったことによって相殺され、なかったことになった。


「くっ、そのくらいでいい気にならないでください!!」


男はトドメにしようとしていた攻撃をいきなり透かされ、顔を真赤にして激昂した。その怒りのままにハルバードを大雑把に振り回し、通路をやたらめったらに破壊していく。

─────それが俺の狙いだと知れずに。


「お前、何をやっているんだ!」

「その手の武器を離せ!」


そう、俺が狙っていたのはこれだ。【合成】を使わずに、相手を倒すには、誰かに任せればいいというわけである。

俺がジリジリと後退していたのもその一環だ。後ろに行けば、警備の騎士団がいる方であると覚えていたのが幸いした。

ふう、他力本願作戦成功だ。

後ろから聞こえてきた大声と金属の鎧特有のガチャガチャという音が、男の怒りをさらに増量させたようだった。


「お前ェ……、これを狙って下がって行ってたのか……っ!!」

「その武器を離せと言っているだろ!」

「うるさいうるさい!こんなの僕の計画と違う……!!お前は一体なんだ……?なんなんだ、お前はっ!?」

「ただのしがない性転換した転生者いっぱんじんよ、覚えて帰りなさい」

「僕を虚仮にしやがって……この元一級冒険者の僕を!!」


瞬間、男に向かって警備兵の大軍勢が押し寄せた。その圧倒的な物量に、男はハルバードを振りかざすもせき止められる。男はなおも叫びながら、騎士団に攻撃をようとするが、そこは熟練の戦士たちだ。いともたやすく男を拘束し、俺の方に向き直った。


「大丈夫ですか?」

「ええ、なんとか」

「私達の方に近寄ってきてくれて助かりました。おかげで把握できましたので」

「こちらこそ助けていただき、ありがとうございます」

「それで、この男についてなにか知っていることはありますか?」

「……この方は私が控室を出たところ、突然廊下に立っていたので何者かもわかりません」

「そうですか……すみません、気づくことができなくて」

「いえでも、この方の狙いはわかっています」

「なんですと!?それは一体……」


「ええ、この方……この方らは、、キズカ・サティアースを狙っています」


待ってろよ、キズカ。今助けて、また三人で一緒にいよう。

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