第25話

「なんで私があなたのところに来たと思う?」


私の目の前に立ちふさがった彼女は、そう意味わからぬことを問いかけてきた。

競技中なのだから、私が手に入れた宝物を奪いに来た、もしくはこれから取りに行くことを妨害しに来た、以外あり得るのだろうか。

私は首をかしげつつ、自分の腰元を左手で指差し、彼女に問うことにした。


「何を言ってるの、これ目的でしょ?」

「ん、ああ。そういうことか……。いや、私の目的はそれじゃない」


宝じゃない……?彼女が指差しているのは私……?そして彼女の言と見覚えのない顔。

まさか────。


「私の命……っ!?」

「ようやくわかったらしいわね」


ニイと、嗤うという表現がぴったりなほどの笑顔を浮かべ、彼女は魔法子を爆発したと錯覚するほどの勢いで放出した。

それら魔法子は光を放ちつつも何かが起こるわけでもなくただ浮いているだけ、のように見える。

最も目に見えないところで何かを行っているのかもしれないが、私の非活性の魔法子を見ることができる特殊な目を使っても見えないので多分ないだろう。


「さあ、踊りなさい」


彼女は更に魔法子を展開させ、そう呟いた。

瞬間、彼女の隣の空間がひらめき、1本の光条が宙を駆けた。

私はそれを認めた瞬間、叫び返す。


「【加速アクセラレーション】!!」


魔法子がいつものごとく体の速度を後押しし、目に見えないほどの速度へと至る魔法が発動した。

だが────。


「ぐっ!?」


なんと光条はそれを上回る速度でまっすぐ私の方へ飛翔、肩口を貫いたのだった。

……私の魔法の効果は加速、減速を操ることができる。言い換えればトップスピードを上げることはできてもトップスピードに至るまでの時間はある程度確保しないといけないのだ。その弱点を突いたのだろうか。いや、私の想像より光が速いというだけなのだろうか。

ただ一つ言えることは、私の加速よりも上を取られているので劣勢、ということだけだ。


「あなたを殺しに来たのにあなたの魔法の対策をしていないと思って?」

「確かにそうね、私が侮っていたわ……」

「反省会なら地獄でやりなさい、とっとと送ってあげるから!」


またも光条が放たれようとする。魔法子の活性を非活性の魔法子が消えていくことから察し、叫ぶ。


「そっちこそ私のことを甘く見ているんじゃない!?私がただ貴族の令嬢として鍛錬をしていないとでも!?」


私は魔法が完成する前に動く事ができる。非活性の魔法子を見るということはそれだけのアドバンテージを生み出せるのだ。これは生まれ持った資質に感謝したい。

私の体質と加速の合せ技である、これで避けられないのならあるいはお手上げだが……。

彼女が予想通り放った光はそのまま後ろの木の幹をジュッと焼け焦がすのだった。


「やはりそうね。あなたの魔法は光、速度は早いけれど一直線にしか進まないわ」

「……」

「そんな魔法なんて簡単に見切れるわよ!」


私は2歩3歩とどんどん加速していく。光線を連続で放つ女との距離が縮まり、手を大きく伸ばせば殴り飛ばせるほどの距離まで来た。

そのまま手を伸ばそうとするが、女はニヤリと嗤って動かない。

そして私に、から焼ける痛みが襲いかかったのだった。


「ガハッ……!?」

「学ばない子ね。あなたのことは対策していると言ったでしょう?もちろんあなたのその体質を使われることは予想できたわ」

「……なんで、後ろから」

「あなた、私が最初に撒いた魔法子のことを忘れていたでしょ」


そう言われれば。彼女が戦闘開始と同時に撒き散らした魔法子は一体何だったのだろうか。ただ存在させるだけなら全くの無駄であるし、トラップならもう少し速く起動させるだろう。

それに焼ける痛みは先程肩に食らった光条の痛みと全く同質。

光条……光。


「……まさかあれは、光を反射させる魔法子!?」

「そうよ御名答。正解の記念に何かあげようかしら?」

「冗談も休み休み言いなさい」

「あら、つれないわねぇ。じゃあ勝手にあげることにするわ。私の魔法は【光条レーザー】と【光反射ミラー】、その2つよ」


なるほど、字面からしてもまんまといった感じね。

しかし聞いただけでも私との相性は最悪だとわかる。


「私を的確に狙っているのね……」

「あなたの【加速アクセラレーション】は脅威ですもの」


そう言い切った瞬間、またも彼女から大量の光条が発射された。

直線的に狙ってくるヤツはなんとか見て避けることができるが……。


「うぐっ……!」


背中や横にある魔法子が反射する光はどこに飛んでくるかわからない。そして光は私の認識より速く進む。だから当たってしまう。

私は全身にやけどを満遍なく負ってしまい、その痛みに脳がくらくらしている。

嵌められた、と気づいたときにはもう終わっている、計算高さを感じる攻撃に、私はなすすべもなくやられるのだった。


「とでもするつもりだろうけど、絶対にさせない!!私は必ずアンタを倒す!!」


アイツ彼女あのこも見ているのだ。負けてなんか、恥だろう。

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