第24話

さてさて、そろそろキズカの競技が始まる頃だ。

俺は控室で適当に時間を潰して、観客席に向かおうと控室の扉を開けた。

そこには誰もいないはずなのだが、何故か視線を感じる。


「狙われてる……なんてね」


だがこの感覚は最悪の形となって実現するのだった。


 ☓☓


開会式の会場からすこし離れたところにある岩と木が混じり合った森の中。

私が出る競技、探索競技サーチングは名前の示す通り、フィールドに散らばったキーアイテムを拾い集めてポイントを稼いでいく、冒険者の基本となる迷宮ダンジョンの探索技能を図る競技だ。

まあ平たく言ってしまえば宝探しであり、それを他人と奪い合うもの。

ミクリいわくバトルロイヤル……?という戦闘形式だ。

今回は予選なので、ポイントを多く集めた上位の者たちが決勝に駒を進められる。


「アウラムも見てるのよね、これ」


なんだかそう思うとやる気になってくるから不思議だ。


「さ、やる気入れて闘いますか」


一応予選ではあるのだが、予選も本番には全く変わりない。

私はいつもこういうものの前には、心に段階を作っているのだ。

普段の貴族らしい振る舞いと、戦闘のための容赦をしない振る舞い。

これは貴族に生まれた私だからこその感覚かもしれない。


『さてそろそろ各々の準備が終わったようです!それでは探索競技サーチング予選会、スタートです!!』


頭上から開始を示す声が鳴り響き、そして私は一瞬にして魔法を組み上げる。


「【加速アクセラレーション】!!」


生み出した魔法子を足にまとわり付かせ、そして効果を発揮させる。

後はもう、全力で走り抜いて宝を奪うだけだ。

一歩を踏み出すだけで、周りの景色がどんどんと変わっていく。

遠くではもう早くも戦闘が始まっているようで、爆雷の音が響いてくる。

しかしこの競技の本質は名前のとおり探索、宝を捜索する部分にあり、相手を妨害するのはあくまで’ついで’でしかない。

そう考えると私の【加速アクセラレーション】や【減速アクセラレーション】はこの競技にうってつけ、というかこのために生まれたのではと思えるくらい相性がいいのだ。


「とっとといっぱい集めて、後は耐久にしてあげるわ」


 ☓☓


「お嬢さん、これからどこに行くつもりなんだい?」


うわ、何故か視線を感じるとか言ってたら、マジで声かけられたよ。

しかもすっげえ人の良いうさんくさい面してるしさあ……。

俺に声をかけてきた男は紺色のローブにいわゆるハルバードと呼ばれる斧槍を背負っている。そして笑顔をたたえている凡庸な、だがしかし目が狂気的な顔。

こういう顔してるやつは大体宗教勧誘かナンパかN◯Kの集金と同じでめんどくさいというのが相場が決まっている。


「どこって一旦友達の応援に行くつもりなんですけど……何なんですか、ナンパなら股間蹴っ飛ばしますよ」

「ふふ、ずいぶんとやんちゃなお嬢さんだ。そんな子には躾が必要だなあ!!」


そう叫びながら、男は背中のハルバードを握って振り下ろしてくる!

危ねっ!?

俺はとっさに避けて、男をキッと睨みつける。せめてもの抵抗、というわけではなく男を倒すために分析をしているのだ。

男は普通の体型なのだが、大きめのハルバードを安安と振り回している。

油断はできない。


「アンタ、私を狙って……なんのために?」

「僕はあなたのために来たのではないですよ。まあ、少しぐらい目的を言ってもどうせ何もできやしないでしょうか」

「ッ……」

「僕はあなたの大切なお友達を殺しに来たんですよ」


大切な友達……。


「キズカのこと……!?」

「ええそうです。僕の大いなる目的のために、彼女は犠牲になってもらいますよ」


……男はこう言っているが、俺はそうではないと睨んでいる。

なぜなら今俺を狙う理由はないからだ。

つまりは、複数犯もしくは俺を脅しの道具に使うかのどちらか。


「アンタ、それ嘘でしょ。私を狙う理由がない。他に誰か潜入してる?」

「ほう、もう見抜かれますか。侮っていましたね」


男はそういった瞬間、ハルバードを勢いよく振りかぶってきたのだった。


 ☓☓


「これで、3個目」


木の洞の部分に意味深においてある宝石を拾い、これで3つ目だ。

私は開始5分ほどで順調に宝物を集めており、逆に順調すぎて怖いほどだ。

まだまだ魔法子は生み出せるし、体力自体も余裕あり。

これなら────……。


「────さ、それを渡して頂戴」


やっぱりこのまま勝ち抜く、とはいかないか。

私が声が聴こえた方に振り向いた瞬間、目の前を魔法子の輝きが覆った。


「!?」


とっさに飛び退くと、刹那、魔法子ごと空間が爆発した。

もうもうと立ち込める煙の向こうには、女性的なシルエットが一つ。


「アンタ、これを奪いに来たのね」

「そうよ。あなたに勝ち抜けせるわけにはいかないわ」

「勝ち抜かせるわけにはいかない……?」


なにか引っかかる言い方だ。まるで、私の行動を止める事自体が目的というようだ。


「まあいいわ、これが欲しけりゃ力ずくで奪いなさい」


そう宣戦布告すると、彼女は鼻で笑った。言うまでもない、ということだろう。



…………彼女の正体にも実力にも、気づかぬままに。

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