第22話

ハーブストス祭にはいくつかの種目があることは先に述べているとおりだ。

では、俺たちのチームの競技分担はと言うと。

俺:制作競技メイキング

キズカ:探索競技サーチング

アウラム:戦闘競技バトルマッチ

クリーナ:魔法競技マジックマッチ

となった。

まあ、得意不得意から自然とこうなるのはわかる。


「じゃあなんで私が修行に付き合ってんのー!?」


俺の叫びが森に木霊した。

そう、今はハーブストス祭2週間前、もう準備も大詰めとなる時期だ。

選手である俺達はギリギリまでコンディションを高めようと、それぞれの練習をする予定だったのだ。

それが何故かアウラムに呼び出され、気づけば森の中に連れて行かれたのだ。


「仕方ないだろ、キズカは遊びに行っちゃってるんだから」

「そうですよ、それに聞けばミクリさん魔法技術がすごいらしいですし」


おーーーーーーい、アウラムさん???

俺の話しないでって言った気がするんだけど?

俺が恨みのこもった半眼デス目線を送ると、アウラムは口笛を吹くような仕草をしながらそっぽを向いた。

自覚あるやつの行動だよなあ、それ。


「確かに私の魔法技術は高いけどさあ、こんな多数に向けての魔法持ってるわけでもないよ」


そう愚痴りながら周りを見ると、俺の言葉通り、巨大なサイっぽい獣が群れて俺達3人を包囲しているのがわかる。見る人が見れば絶体絶命だが、別に追い詰められているわけではない。というかアウラムが嬉々として連れてきたんだけどな。

俺の魔法は【合成】、複数同時合成など無理にも等しいのは明らかだろう。

そう否定の言葉を放つと、クリーナがこちらに笑いかけてきた。


「それなら私の魔法を見てもらえませんか?それについてならアドバイスもできるでしょうし」

「……わかった。それなら私も役に立てるし」


そう返す。そして、彼の魔法子が一気に爆発した。

元の物語では、クリーナはアウラムやキズカと比べて目立った活躍はしていない。

しかしリアルで、近くで感じるこの魔法子の気配は、彼が相応の実力者であるということを示している。

つーか、なんでこいつこんなに何でもできるの?

逆福沢諭吉か?


【鳴響波】オルケスタ


クリーナのイケボがそうつぶやいた。

瞬間、地震でも起こったのかと錯覚するほど巨大な揺れと轟音が空間を支配した。

もちろん巨大サイどももその振動に巻き込まれ、というか顔を歪めて苦しそうな表情をさらしている。俺はそのうるささに耳を塞ぎつつ、叫んだ。


「効いてる!けどうるさっ!」

「……した……」

「え?」

「なにか言いましたか!!」


うわびっくりした。この魔法、音がデカすぎて会話しにくくなるのが欠点だろ。

魔法を解除したクリーナが、こちらへと叫んできたので、アドバイスをしてやる。

ちなみに巨大サイどもは普通に倒れて、白目を剥いている。威力はあるのかい。


「いや、この魔法強いのはいいんだけど、使い勝手悪くないかなって」

「それは……そうなんですよ、そこを相談したくて」

「これ以外に使える魔法ある?」


この世界では魔法子が体内の心臓から生み出されていて、それがリンパ管を通って指先や掌から体外に放出するというプロセスを経て魔法が発動するのだ。

魔法子は個々人によって体外に放出されたときの振る舞いがあって、それが持っている魔法の種類となるのだ。

ややこしいが、要約すると細かい粒子が動いて物理現象を起こしている、みたいな感じだ。

多分彼の魔法は魔法子がその場で振動、それを共鳴し合うことで膨大な振動にしているといったところか。


「一応、何個かはバリューあります。相手の攻撃に震えをあわせて、威力を減衰させるとか」

「なーるほどね……」


思案する。先程の魔法は、無差別に、そして無調整で行ったからああなってしまったのだろうか。それなら、ああすれば良くね?


「じゃあさ、さっきの振動魔法を起こしながら、魔法子を勢いよく放つことってできる?」

「……?多分、できると思いますけど」

「それなら、出す魔法子の数を絞って、相手の耳に勢いよく叩きつければ良くない?」

「────確かに。それなら大きな音を周りに被害を出さずにいけるかも」


どうやら思いついてなかったらしい。しっかり考えてくれよな。


「……話はまとまったか?!」

「って、ごめんアウラム!?」


完っっっ全に忘れてた。声の方に二人して振り向くと、アウラムが起き上がった巨大サイ達を一人でさばいていた。

やっぱイカれてるよこいつ、自分で戦うようになったからわかるけど。


「すみません、今そいつらを吹き飛ばします!」


クリーナがそう言いながら魔法子を活性化させる。

そしてそれを勢いよく、巨大サイの耳と思しき顔の横部分に叩きつける!


「ギャアアアアアッ!!?」


やっぱりどんな生物でも耳は鍛えることが難しい。そこに巨大な音を伴った振動をぶつけてやればこの通りだ。

これぞ名付けて”デスASMR”とか?


「上手いじゃん、クリーナくん!」


そう言いながら笑いかけると、なぜかクリーナはその後もずっとこちらから顔をそらしたままなのだった。

なんでえ?

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