第21話

「やはりサティアース家は我らにとって都合が良い存在。かの令嬢を使えば利用していくことも容易いであろう」

「そうでございますね。慧眼です」

「さて、もう少しでハーブストス祭があるであろう」

「まさかですが」

「フッ、我らが帝国に栄光あれ」

「我らが帝国に栄光あれ」


キズカを巡る大きな陰謀が渦巻いていることを、俺達は知らなかった。

そしてあんな事態になることなど……──。


 @


「こうして学校来るのも久しぶりに感じるなー」


そう独りごちる。

まあ仕方ないだろう、夏休みが異常な濃密さをしていたのでそう感じるのだろう。

アウラム父との大決戦に水着回……もう、思い出したくなくても自然と思い出せるような思い出たちばかりだ。

そう感慨にふけりながら歩いていると、後ろから聞き覚えのある話し声が聴こえてきた。

振り返ると、キズカとアウラムが並んで歩いているのが見える。


「二人共、おはよー」

「おはよう、ミクリ」

「おはようね」


二人共夏休みの海旅行の時とあまり変わらない様子で登校してきた。

いや、アウラムは少し日焼けをしていて、かっこよさにプラス補正がかかっているように感じる。

チッ、夏休み中になんかあって互いに意識してるとかなかったのか。

あったら口笛吹いて囃し立ててやったのに。

いや、もしかしたらあったのかもしれない。俺が買って読んだ原作にはそんな話見た記憶が朧げにある。

よし、キズカを揺さぶってみよう。平然としてるように見えてキズカは意外と土壇場に弱いのはわかっている。


「ねえ、キズカちゃん。夏休みの内になんかあった?」

「なんかって何よ」

「例えばキスとか」

「なななななに言ってんのよ!?あああああある訳ないじゃない!?」


なんかあるタイプだろその反応。

ツンデレキャラは俺の好みではないがこういうの可愛いと思う気持ちはわかる。

普通に俺も一瞬ドキッとしてしまったからな。


「まあ、私は応援してるよ」

「応援って……」

「じゃ、授業に遅れるから行くねー」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよミクリーッッ!!」


キズカの声が木霊し、アウラムは何の話かわからずに首をひねるばかりであった。


 @


「今度行われるハーブストス祭についての説明をしよう」


グンピーテ魔法学院は教室、俺たちは前に立つ教師の声を聞いていた。

木製の壁で囲われた教室は如何にも異世界感があるが、教師の服は白衣でミスマッチにしかなっていないのは御愛嬌だ。

そんな彼女が今現在話している話題が、夏休み終わってすぐにあると聞いていたハーブストス祭についてだ。

ハーブストス祭、それはグンピーテ魔法学院だけではなく、このリリアルス王国のすべての学院が各学年から何名かの代表者を選び出し、いくつかの種目で覇を競い合う催しである。

言っちまえば、でかい体育祭的なものだろう。

種目はただの戦闘競技バトルマッチだけでなく、誰が一番早く隠されたものを見つけられるかという探索競技サーチング、即興でお題に合うものを作り出す制作競技メイキングなど、将来の職について役立ちそうなものが多い。

うーむ、これ物語を知っているからわかるが……。


「今回このクラスから選ばれたのは、アウラム・クロセンティア、キズカ・サティアース、ミクリ・テシオ=ジャスミン、クリーナ・フルの4人だ」


デスヨネー。

一応物語の通りに進めようと成績が良いように継続していたので、それが災いしてだろう。

多分アウラムとキズカはその戦闘能力を買っての選出であることもわかる。

クリーナ・フル──彼はこのクラスでは「万能超人」と呼ばれるほど何でもできるタイプのイケメンだ。

頭脳も現代の知識を持っている俺に追随するほど、戦闘力も教員のお墨付きという、まさに優等生の体現と言った彼なのだが、それを鼻にかけない優しさも持ち合わせている。

こういうやつが一番腹黒いんだよ、ケッ。

完璧イケメンとか前世の俺の対義語じゃねーか。


「やっぱりこうなるのね」

「大体予想通りですね」


ほら、今もナチュラルにキズカの方に話しかけてきたし。


「さて、この4人で問題はないだろうか」


そう教師の彼女が問いかけ、教室の皆が無言で頷くのを見回した。

こういうのは日本でも大体反対されることないよな、と思いつつ、代表4人で集まる。


「よろしくお願いしますね、ミクリさん」


なんで俺なんだ……、イケメンフェイスは苦手なんだよ。

とりあえず微笑で対応だ。


「よろしくね。クリーナくん、何か出たい種目はあるの?」

「これと言ってはないかな、多分なんでもできるので」


自慢が入っているのは皮肉かそれとも……。

ともかく、ハーブストス祭に出るメンツは決まった。

これからハーブストス祭に向けての練習が行われると思うと、かなり楽しみになってくるな。

そう感じた俺なのだった。



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