第20話

というわけでユウセイも誘い、今現在は南の方にある海へといつもの4人メンツで来ていた。


「海だーっ!!」

「そのセリフ……」

「なにか言ったか、ミクリ?」

「いーや、こっちの話」


某ウェミダーネタに引っかかったって言ってもどうせわからないだろうしな。

まあそういう俺の事情はとりあえず置いといて、海を見てみる。

異世界の海はそれほど地球のそれとは変わらず、日の光を受けてキラキラと輝いている。浜辺には時折貝殻が落ちており、波がそれを掻っ攫おうとする様子が頻発している。

ザザーン、という効果音が付きそうなほどありふれた光景を、俺は水着を着た状態で仁王立ちして眺める。

羞恥心はめっっっっっっちゃあるが、アウラムと自分の体さえ見なければ多少は軽減されるので意識から無理やり追い出しているのだ。


「ミクリ、似合ってるぞ」

「……ッ」


あーーーーーーーもうこいつ自然にそういうこという!

中身男にそんな事言われても照れるだけなんじゃ……。

だから水着は嫌なんだよ、スースーするし。

ちなみに俺はクロール程度なら泳げるはずだから、とっとと海に入りたい。


「アウラムさん、これ」

「おお、気が利くな、ルキ」

「いえいえ、どうぞ二人でごゆっくり」


ルキはいつの間にか海を見ていた俺達の後ろにおり、アウラムにドリンクを手渡して帰っていった。

ルキのその気遣いはアウラムにとってはものすごくありがたいんだろう。

しかしなぜそんな目で俺が睨まれなければならないのか、ルキ。

キズカは後ろでなんかもじもじしてるし、多分使い物にならなそう。

よし、海入って逃げよう!



 @


「えいっ!」

「やったわねミクリ……!」


キズカの照れ状態はその後十分少々で治り、今は二人で水のかけっこだ。

これ、外から見たら百合漫画的なシーンだろうな。

ひんやりとした感触が夏の暑い日差しへの対抗策となり、心地よいと呼べる体感になってきた。

波は穏やかで、足元を見れば海藻が流れるのがくっきり見える。

キズカの水着はこの前買っていたビキニタイプのそれで、彼女の玉の肌を惜しげもなくさらけ出している。

うん、今は女であることに感謝をしよう。なぜならこの眼福を合法的に間近で見れるのだ。見てるか前世の俺よ。羨ましいだろ。

何ならこういうこともできるんだぜ。


「えい!」

「え、ちょっとミクリ!?恥ずかしいわよ」

「いや、きれいな身体だからつい……」

「ついじゃなくてー!」


いかん、後から俺にも羞恥が来た。ノリでやるもんじゃないな、こんなこと。

浜の方から黄色い歓声(めちゃくちゃに聞き覚えのあるどこかの妹分の声)が聞こえてくるが、無視だ無視。

こういうシーンでは大抵女の子の水着が外れて男の子がブッ飛ばされるのがお約束だが、悲しいかな目の前にいるのは。そのようなことが起こっても笑って済ませられるのだ。


そうこうしている内に、ザブザブと水をかき分けて、アウラムもこちらへと近づいてきた。

なんだあ、てめえ……?空気読めよ神聖なる百合空間やぞオイ。

俺の思念が伝わったのか、アウラムは急遽身体が硬直し、そのまま沈んでいく。

って、沈んでいくぅ!?


「何やってんのよ、アンタ!」

「ちょちょちょ!」


キズカは動揺し動きが止まってしまった、なら俺が動くしかない。そう考えるよりも早く、身体は動き始める。

幸いにもある程度深さはあるところだったので、潜ってできるだけ早く泳ぎ始める。

やっててよかった、筋トレ……!

すぐさまアウラムの元へと泳ぎきり、水面へと彼を押し上げる。


「プファ」

「もう、泳げないなら泳げないって言ってよ」

「……オヨグって何だ?」

「……」


そうだった。こいつ、地底の魔族なんだった。そんな奴が泳ぎを知ってるわけがない、すっかり忘れてた。もしかしたら海すらも知らずに来たのかもしれない。

俺は張り詰めていた息を大きく吐き、アウラムに言う。


「泳ぐっていうのは、こういうところで早く移動する動きのこと」

「移動する動き、か」

「こういうのは、見てもらったほうが早いかも」


そう言って、クロールの構えを取る俺。

そして勢いよく飛び出し、一気呵成にキズカの元へと戻る。


「ミクリ、泳ぐのうまいわね。元々海の街で生まれたとか?」

「いや、プー……じゃなかった、湖が近くにあったんだ」


危うく前世のことを口走りかけたが、ごまかす。

もう一度泳いで、目を丸くしているアウラムに近づいた。


「こういうこと」

「なるほど、面白い……こんな水がいっぱいある場所で戦う時に、必要そうだな……!」

「出たよ戦闘バカ」

「バカって何だよ……」


俺がポロッと零すと聞こえていたようで、本人に反応された。

その本人は、歯切れ悪く謝罪を口走る。


「その、ごめん」

「何が?」

「いや、さっきかなり心配させたみたいだから」

「……そうだね。これからは事前に聞いておくから」

「知らなかった俺も悪い、本当にごめん」

「謝らなくっていいよ」


優しく、諭すような口調でそういった俺に、アウラムは無言で笑いかけてくれた。

ウインクしながら、言う。


「それじゃ、私が泳ぎを教えてしんぜよう」

「いいのか?」

「また誰かと来ることになったら大変でしょ?それに」

「それに?」

「剣術の修行を無理矢理させたこと、後悔させてやろうって思って」

「え」

「私は厳しいから、覚悟してね、アウラム」


そう言って、ささやかな復讐へと走る俺なのだった。



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