第閑話ー③

「そういえばミクリ、あの魔法は結局なんだったんだ?」


ついに来たか、このときが。

ダンジョンでアウラム父たちと交戦、地底に送り返してからの帰り道のことだ。

アウラムが気になっていた、という前置きから放ってきたのがその質問だった。

使うときから言われることは覚悟はしていたが、なにか小っ恥ずかしい気分になってきた俺は顔を背けながら答える。


「あれは【合成】だよ、あの鍛冶師とか調薬師が使う」

「え?本当に【合成】なのか?明らかに火力とかおかしくないか?」

「それはね……」


口をつぐんでしまう。

俺の使い方は現代日本の化学を学んでいないと全く理解のできないものなので、どう説明して良いのかわからないのだ。

キズカにも説明してないのはそのためであり、今も俺とアウラムの話を目を輝かせながら見ている。

と、ここで俺は突然思いつく。

地球にいた頃読んだラノベに、自分で思いついた技術をあたかも存在しない師匠から教わったかのように詐る主人公がいた。それを真似するのはどうだろうか。

ちょうどいいことに、俺には妹分のルキがいる。すまん、ルキ、使わせてもらうぞ。


「あの使い方を教えてくれたのは、ルキなの。ルキシャ・ロウドラス」

「ルキちゃんって……ああ!あの妹分の!あの子が教えてくれたって……?」


キズカが思い出したようで大きな声を上げる。

一度3人でお茶をしているからな、覚えていたんだろう。

彼女の無意識も利用させてもらおう。


「彼女は魔法の才能自体は無いんだけど、観察眼が鋭くて。【合成】の仕組みを解説していたときに急にひらめいたらしいの」

「ああ、それでお前が教えられて、使っているというわけか。なるほどな。いやー、急に大魔法を使うから、前世の記憶が降りてきたのかと思ったわ」

「ブフッ……流石にそんなことはないよ」

「?」


想像以上のニアピンに思わず吹き出してしまった。

キズカとアウラムは揃って首を傾げている。

なんだ、なんというか知らない人が秘密にしていることをズバリと言い当てるの、怖すぎるな。

怖すぎるといえば、そういえばだ。

神から言われていた、物語の流れとは違う形で収めてしまったが、大丈夫なのだろうか……。実は、元のラノベの物語ではあの最後の一撃をキズカがアウラムのかわりに受け、大きな怪我で一時的に退場するのだ。その未来を知っていた俺は、なぜ身体がとっさに魔法を使おうとして、キズカを傷つけたくない、守りたいという気持ちに気づいたのだ。

そこまではいい、後悔はしていない。

だが、本当ならあそこでアウラムがキズカを傷つけたことに怒り、覚醒するはずだったのだ。そこで父に助言をしていた魔族の貴族たちを鏖殺、偽善の道を進む覚悟をする、というストーリーの流れが面白かったのをしっかり覚えている。

だがアウラムは父の目を覚めさせ、和解する結末に変えてしまった。

女神は「物語の通りに進めたら元の世界に戻せる」と、言っていたはずだ。

ここで変えてしまったことで変えるチャンスをふいにしてしまったのは、もうしょうがないと割り切る。元の世界に未練もあまりないからな。

一つ懸念しているのは、女神が予定通りに行かないことに腹を立てたり、何か世界のバグが起こってしまったりする、ということだ。

アウラム父以上の脅威が来ると考えると、かなりやばいかもしれない。


「……リ。ミクリ。大丈夫?」

「ああ、うん。何でもない」


頭を振って、思考を吹き飛ばそうとする俺なのだった。


 @


「……そういう選択をするのね。良いわ、面白い」


感慨げにつぶやく。その鈴の音はただ響いている。

白い世界だ、どこまでも。


「でも、世界が許してくれるならいいんだけど……」


その言葉が皮切りとなって、ミクリの世界が夜になっていく。

まるで、前途多難な未来を暗示するように。


「どこまで行けるかしら、あの子は」


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