第18話

俺の魔法子が迫りくる隕石……厳密には、岩の塊だが、大きさや速度ともに隕石と言っても差し支えないだろう、それを包み込み始める。


「ッ何を!!」


アウラム父は俺が魔法を使ったことが意外だったようで、目を剥いている。

またやはり親子同士なのだろう、アウラムも迫る攻撃のことを忘れたようにこちらを凝視している。


「はああああっ!!」


裂帛の声に呼応して、魔法子の輝きが片っ端から岩塊を分解、消滅させていく。

正確には、岩を構成している二酸化ケイ素を酸素とケイ素に分解して空中にほっぽりだしている。

キズカは、仕組みはつゆも知らないせあろうが効果は一度目にしているので、あまり驚きはなさそうだ。


「何なんだ、貴様はッ!!??何故消えている、儂の攻撃があああ!!」

「分かってたまるかよ、地底人にな!」


そう言いながらニヤリと笑う。

しかしこう強がっているが、実を言うと限界がかなり近い。

俺はキズカほど魔法子を持っているわけでもないし、アウラム並みに持久力や並行思考力があるわけでもない。

だから、消すだけでいっぱいいっぱいなのだ。

今も相手がこちらに向かってきてるのに無防備で……。

ん?こっちに来てる?


「お前を殺せば済む話よッ!!」

「まっずい、助けて、アウラムッ、キズカァ!!」

「────っ!」


俺が叫んだことで茫洋としていたアウラムが自我を取り戻し、弾かれたように駆け出す。

しかしアウラムと互角の勝負をしていた父が遅れて走り出したアウラムに追いつかれるわけもなく、一定の間隔でこちらに向かってきている。

アウラムが苦し紛れに石弾を数発放つが、もちろんそんな攻撃など左右に体の位置をずらし、避けられてしまう。

だが、


「させると思う?やりなさい、ミクリッ!!」

「小癪な真似をおおお!!」



キズカの魔法子が父の足に絡みつき、明確に減速させる。

二人のおかげで時間を与えられた俺はさすがにそれを無駄にすることなく、岩塊はすでに3分の1が消滅えていた。

キズカの魔法によって止められた父に、後ろから短剣サイズの剣を2本装備したアウラムが斬りかかる。

今度は両手持ちのスピードスタイルだ。


「フッ!ハッ!」


もう声を出すのも億劫なのか、ただ体を倒して迫りくる斬閃を回避した。そのまま紫の魔法子をきらめかせ、鍾乳石のような岩を地面から生やす。それはアウラムを上に吹き飛ばすだけでなく、キズカに向けて石弾を放てるという誇示でもあった。

ここまでやってなお追い詰められていないのが、アウラム父の王たる所以であろう。

前半アウラムに追い詰められていたのは、想像以上にアウラムが成長していたからだろうか、明らかにアウラムを叩く手はキレが良くなっている。


「目を覚ましてくれ、父さん!!」

「目を覚ますのはお前だろ、愚息が。魔族の誇りを忘れ、魔族の怒りを笑い、魔族の恨みを見ないふりするのはやめろ!」

「忘れたわけでも、笑ったわけでも、見ないふりをしたわけでもない!!俺は全部見て、感じて、泣いて、それでも人が好きだって言えたから!キズカとミクリに救われたから!だから、父さんも分かってくれ……母さんのために!!」

「その名を出すなァ!!ブチ殺すッッ!!!」


アウラムも言いようにやられているわけではない。

俺が半分ほどまで【合成】した岩塊を、魔法子で引き寄せ、逆にアウラム父に放ったのだ。


「なっ!?」

「母さんは、人間が好きだった。人間の振る舞いが、仲間で助け合うその心の綺麗さが、母さんだけでなく俺をも虜にしたんだ。そんな母さんが好きな父さんなら、わかるはずだろ!!」

「ッ!!知ったような口を……」

「母さんを、愛していたんじゃなかったのか?!?!」

「!!??」


その言葉が、最も予想外だったようだ。

岩塊が、ゆっくりとアウラム父に落ちていく。

多分これをしているのは、キズカだろう。

気を利かせているのか。


「父さんは、俺のことを疎ましいと思っていたかもしれない……。でも、母さんのことは愛していたはずだッ!!その気持が本物なら!!」

「……、は。……あいつの人間好きなところも、愛していた、のか……?」

「ああ、そうなんだろう!そして、!!」

「────」

「人間は確かに俺たち魔族を追放したかもしれない!だけど、魔族だって隣人を愛している!人間もそうだ!!なら、手を取り合えるッッ!!仲良くなれるに決まってるだろおおおおおッッ!!」


膝から崩れ落ちる。滂沱の涙を流しながら。


「俺は……なんでこんなことを……。人間を滅ぼしたって、あいつは帰ってこない。そんなこと自明だってのに……周りの怨嗟、それと俺の悲しみが重なってたってんのか……」

「魔族を、導いてくれ。父さん。母さんが目指していた世界へ、かつてのように人と魔族が手を取り合っている世界へ」


アウラムは涙ぐみながら、彼の体を、妻を亡くした悲しみの亡霊を溶かすように、そっと抱きしめたのだった。

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