第17話
話を少し変えよう。
土魔法、と言われて思いつく攻撃方法はなんだろうか。
落とし穴を開ける?岩を弾丸のように発射する?
どれもよくあるものだが、いまいちパッとしないようにに思える。
しかし、今俺の眼前で行われている戦闘は、互いに土魔法を使っているとは思えないほどの衝撃と破壊が行われている。
「せええええええああッ!!」
「調子に乗るなよ、クソガキがあッ!!??」
アウラムの裂帛の声が、剣を振り下ろす時の風切り音とともにアウラム父に届く。
彼はその一撃をとっさに躱し、カウンターとして魔法子を閃かせた。
土のドリルがアウラムを削らんとするのを、キズカが発動した減速魔法で抑える。
「ナイス!まだまだッ!」
アウラムの剣が父に届こうかというところで、父はどこからともなく剣を取り出し、それを受け止める。
ッッドン!!、と剣戟らしからぬ鈍い音が出る理由は、彼らの剣は土魔法で固められた土の剣だからだ。
そのまま袈裟斬り、突き、斬り上げ、剣舞を続けていくアウラムたちに、俺たちは介入できないでいる。
そうやって親子の因縁に見とれていると、クレーターの対岸にいた魔族の仲間たちが、思い出したように鬨の声を上げながら走ってくる。
「どうやら私達も標的みたいね。戦える、ミクリ?」
「剣は持ってるし、ショップで買ってきた道具もある。全然行けるね」
「まあ、いざとなったらあれがあるしね」
「もう、使いたくないのは言ってるじゃん」
「フ、そうだったわね。じゃあ、やるとしましょうか。【
俺たちの方に勢いよく走っていた彼彼女らは、キズカの魔法子によってその場に縫い付けられたように減速する。
前につんのめるお相手に、俺はアウラム仕込みの地下魔族流剣術──俺が命名したものだが──でダメージを与えていく。
「「舐めるなよぉ!!」」
だが、流石は魔族といったところだ。キズカが発動した減速魔法もすぐに破られ、体の自由を取り戻したやいなや、俺に得物を振りかざしてくる。
俺はそれをバックステップで回避するが、浅く傷を負ってしまう。
「ッ……」
「大丈夫かしら、私も加勢するわよ」
そういいながら、手の中にきらめく魔法子をまとわせるキズカ。
よく見れば、その手中には拳よりも少し小さい石が握られている。
「アウラムが発射してたやつ?」
「そ、せーのっと!」
その瞬間、暴風が俺の目を強制的に閉じさせた。
風の暴威が収まり、恐る恐る目を開けると、敵の一人は腹に大穴を開け、何人かは肩口がえぐれており、残りは地面に蹲っていた。
この惨状がどうやって起こったのかを推測すると、まずキズカが石を投げ、それを最大出力の加速魔法で加速した。そのときに風が巻き起こったのだろう。それは正面にいた男の腹をいともたやすく突き破り、そのまま直進。床へ当たった振動で相手のバランスを崩させ、反射した石弾は何人かの肩口をえぐって停止した、と言った感じだろうか。
一人、というか一撃で相手の集団を壊滅させた当の本人は、魔法子を失った反動で息を切らしているが目立った傷などはなく、いかにチートかがわかる。
というか俺の【合成】も強いはずなのに、霞んでみえるぜ。まあこれで物語まんまだからあんま文句言えんけどな、ガハハ。
「喰らいやがれ、愚息があッッ!!」
「────ッ!!?」
轟音。とっさに振り向くと、だだっ広い空間の上を埋めるような巨大な岩の塊……もはやそれは小さな山のようである。それは、アウラム父が周りの岩を自身の魔法子でかき集めたものだろう、特徴的な蒼のオーラを纏っている。
剣戟で打ち負かされたのか、膝をついているアウラムは、避けようとすることもできないようだ。顔が蒼白になり、歯を食いしばっている。
まずい。
アウラムをここで殺せば、物語が終わってしまう。
それに、あんな攻撃はラノベに出てこなかった。
俺がこの世界に来たことで微妙に変わってしまったのか。
葛藤する俺を尻目に、キズカは巨大岩石弾を止めようと魔法を放つ。
だが、止まらない。無慈悲な大質量は、人間の抵抗に揺らぎはすれどかわりはしない。
キズカは自分の攻撃が効かないと見るやいなや、
───────走り出した。
アウラムの元へたどり着いた彼女は、何かを諦めた顔をして、アウラムを突き飛ばす。
その瞬間、俺は謎の言いようのない情動が心の裡に生まれたのを、確かに感じた。
彼女を守りたい、そして彼を安心させたい。俺の……いや私の事情なんてクソ喰らえ、だ。
「逃げろキズカあああああああああッッッッ!!!!」
「お前らもろとも、終わりだあああああッッ!!!」
「【合成】」
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