第16話
「どうしてここにいる!?父さん!!」
煩わしい声に心底呆れるように、頭を振り、鼻息を鳴らした。
父さんとアウラムに呼ばれた男は、クレーターを作った張本人のようだ、窪んだ中心に立っている。確かにアウラムに似た濡れ羽色の髪を刈り上げていて、その眼光は息子を見ているものとは思えないほど怜悧だ。
「本当は儂は来るはずはなかったんじゃがのう」
「まさか……、俺を、連れ戻しに?」
普段の明朗快活な喋り方は彼方へと吹き飛び、苦しげに言葉を吐き出すアウラム。
そんな彼を不安げな目で見つめるのはキズカだ。流石のキズカも、ここで騒ぎ立てられるはずもない。
アウラムは、心の底から嫌だ、というように震えながら、言葉をつなぐ。
「俺は、も、戻りたくない。あそこよりも面白くて、かけがえのないモノも見つけたんだ」
「さっきから何を言っているんだ、愚図が。誰もお前を連れ戻すなんて言っていない。儂らは、地上を殲滅しに来たんだぞ?」
「ッ?!なんで!!?」
アウラム父から今回の騒動の理由が語られる。
その内容はこうだ。
アウラムが彼の故郷……地下の魔族圏から飛び出していったあとのことだ。
アウラムは今の性格から分かる通り、地上の人間と友好関係を築きたい、というスタンスであった。
そしてアウラムは現魔族王である父の長男ということで、王の跡継ぎ筆頭だった。
跡継ぎ筆頭が、そんなスタイルを取っていれば、周りは否が応でも従うだろう。
そんなアウラムがいなくなれば、魔族内では人間への憎悪が爆発するのは当然の帰結だ。
またアウラムがいる間は沈黙を貫いていた王は、貴族たちの意見に異論を言うことなく、むしろ積極的に人間を襲うことを肯定したらしい。
そのような経緯から、第一次侵攻としてダンジョンへ潜入している、と言った。
アウラムは先程とは別種の震え……怒りの震えのままに叫ぶ。
「なんでそんなことをするんだッ!!父さん!!??」
「うるさいぞ、愚息。儂もお前には手を焼いていた。なぜお前は魔族なのに人間を恨んでおらぬのか。なぜお前はそんな思想でありながら強いのか。儂は苛立って仕方なかったんだ」
「ッ……」
魔族とは、過去に人間とともに栄えていた亜人種だ。
戦闘力が高く、見た目はかなり人間に近いということで、人間との友好関係は良好であった。と、魔族は思っていたがそれは一方的だったようで、ある日、人間は王国から彼らを追放したのだ。強大な力を間近で振るい、言葉も少し粗野な彼らに人間の恐怖は日に日に募っており、絶対的に数が多い人間は地下へと魔族を追いやったのだ。
数百年前に起こったこの出来事は、魔族では代々語り継がれているが、人間ではおとぎ話的にまことしやかに囁かれている、程度だ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。アウラム、どういうこと!?あなた、魔族なの?で、そこにいるのがお父さんで王様で……ああ、わかんないわ!?」
「フッ、愚息よ。かけがえのないモノと言っていたが、その程度のことも教えてないそこの人間どもがかけがえのないモノ、ということはなかろうな」
状況について行けていないキズカが、横からアウラムに動揺をぶつける。
その様子を見たアウラム父は、嘲るようにアウラムに問いただす。
2つの疑問に挟まれたアウラムは、やがてゆっくりと口を開く。
「ああ、こいつらが俺のかけがえのないモノだ。いつも俺に絡んでくれて、俺を高めてくれて、俺に知らないものを教えてくれる、無二の友達だ!!!」
「無二の友達……人間がか!?魔族の王子である、お前が人間の友達を持てるとでも!!?」
「ああ!!すまねえキズカ、ミクリ。お前らに黙ってて。俺はずっとお前らを俺の事情に巻き込みたくないと思ってた。でも違うって事に今気づいた!!それは俺のエゴだ!!俺が、お前らを信頼する!!だから、お前らも俺を信じてくれ!!こんな魔族を、信じてくれえ!!!」
俺とキズカは、見合って頷く。
「アンタが魔族かなんて関係ない、私達はアンタの仲間よ!!信じてやるわ!!」
「お前ら……!!」
アウラムが驚きと嬉しさ半々に目を見開く。
その光景を見たアウラム父は、何かの琴線に触れたのだろう、叫ぶ。
「ハッ……、人間が魔族に抗うというのか!!無謀だぞ、貴様ら、アウラムゥ!!」
「父さん……、俺は人間の世界を、居心地のいい地上をアンタたちから守るッッッ!!!」
その瞬間、アウラムの土の弾丸が放たれたのだった。
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