第14話
「っ!!逃げろキズカァッ!!」
アウラムが必死の形相で叫ぶ。
その叫びも虚しくキズカの柔肌に凶刃が届く、その刹那。
俺は、いや私は使う。
たとえ元の世界に帰れなくとも、彼女を守るために。
「【合成】」
@
夏休みというものは、すべての学生にとっての褒美だと思っている。
新生活に慣れない1学期が終わり、長きに渡って家でゴロゴ……ではなく、休養が取れるというのは、社会人では出来ないことだろう。
え?課題?
課題というのは俺にとっては赤子の手をひねるようなものだ、すぐに終わった。
そんな課題を終わらせてゴロゴロする予定だった俺は今、ギルドに居る。
学園の近郊にある王都の、冒険者組合だ。
女一人ではなく、いつもの3人メンツだ。
「あら、アウラムさん。今日はお友達も一緒なんですね」
黒髪のショートを揺らす顔立ちの整った受付嬢が、アウラムに挨拶をする。
おお、モン◯ンみたい、と内心興奮したのはご愛嬌だ。
心なしか、俺とキズカを見る目がハイライトの消えた真っ黒の色な気がするが、気のせい?それとも元の色?
そんなことはさておいて、彼女は改めてアウラムと向き合い話し始めた。
そしてお嬢様だからだろう。
そういう知識はないのか、キズカはそれを興味津々に眺めている。
二人が話し始め、やることのない俺は暇だから掲示板でも見ようかと移動した。
通路から少しそれたところにあり、白色の石でできた長方形の板が薄く光っている。
木製じゃないのはなかなかに珍しいな。
肝心の掲示板は、こんな感じだった。
─────────────────────
246:名無しの冒険者
北方ヌレイ山のゴブリン倒しに行かね?
248:名無しの冒険者
>>246 行くわけねえだろ一人でいってろ
247:名無しの冒険者
美味な食材募集中
300:名無しの冒険者
>>247 ユニコーンの肉やで
─────────────────────
「いやそっちの掲示板かい!!!!」
ネットの掲示板じゃねえか!
しかも民度悪いし!
それでどうやってクエスト依頼するんだよ!
「ハハ、それ、おもしれーだろ」
話を終えたのか、アウラムがこっちにやってきていた。
俺が掲示板に夢中になっていることを察して、説明してくれる。
「なんか、記録魔導具に文字を打ち込むと、それが反映されるらしい。それで会話ができるようにしているんだとか」
「これ、誰が設置したの?」
「おっさん……じゃなくて、ギルドマスターが、北西の島国にいる知識人からアイデアをもらって作った、だったはず」
もしかして、そいつ転生者か?原作にこんなシーン……描写されてないだけの可能性もあるが……なかったしな。
だとしたら、空気というかなんというか、読めよ。
「あ、そうなんだ」
「ねえ、話は終わったのかしら?そろそろ、今回私達をこんなところに呼び出した理由を話すべきじゃない?」
いつの間にやら近づいていたのか、キズカがアウラムに本題に入るように促す。
そういえばそれがメインだった、と思い出し、俺も便乗するように口を開く。
「そうだね、私も気になってたな」
「ああ、そうだった。今日、ギルドに集まってもらったのは、素材集めに協力してほしいんだ」
彼が明かした理由に、俺は納得の表情を顔に浮かべるが、キズカは少し納得していなさそうな目をしている。
突っかかるところはなかったと思うが……?
「いや、それ一人でも良くないの?」
「あ、確かに。アウラムの実力なら、素材集めなんて私達の力を借りなくてもいいもんね」
キズカの指摘ももっともでまっとうだろう。
それを言われたアウラムは、それを言われるのは想定外だとばかりに目を見開き、すぐに目を泳がせる。
明らかに動揺、何かを隠している反応に、キズカはさらにバクバクと食い付いていく。
「なにか隠してるのなら言いなさいよ、私たちの中でしょう?」
「それは……」
アウラムは確認するように視線をこっちを睨んでいる受付嬢に飛ばす。
ギルド絡みの面倒なことなのだろうか?
視線を送られた受付嬢は睨むのを辞め、すぐに裏の方へ引っ込んだ。
当然、アウラムの言うところのおっさん、ギルドマスターに確認を取るためだろう。
少しした後、例の受付嬢がヒョコリと顔を出し、こちらに来いと言わんばかりに手招きをしている。
俺たち一行はそれに従い、ギルドの中へと入っていくのだった。
あれ……夏休みの自由は……??
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