第閑話その2
「ううー……助けてください、姉さん……」
私の消え入りそうな声が虚しく一人の部屋に響く。
姉さんと別れてから半年いくかいかないかほどの時間がたち、もうすでに耐えられなくなっていた。
私ことルキシャ=デルノウス・ロウドラスは、この街を治める領主、ロウドラス家の一人娘だ。
姉さんというのは、私が憧れている女性である。
今から1年ほど前になるだろう、私が隣の街までおつかいに行っていた帰りのことだ。
二人組の男に声をかけられ……いわゆるナンパをされ、どうすることもできずに困り果てていたところに、声がかけられる。
声の主……姉さん────ミクリ・テシオ=ジャスミンは、そのまま鮮やかな手さばき?口さばき?で、男たちを撃退してくれたのだ。
私はその時、女の人でもこんなにかっこよく有れるということに感動した。
そうして姉さんを姉さんと呼んでいるわけである。
「うん、一旦気分転換しに散歩でもしましょう。お父上もこれだけやっていれば文句はないでしょう」
机の横には、今まで仕事をしていた分の書類が山のようにうず高く積み上がっている。
もうこんなにやっていたのかと驚きつつ、そう独り言ちた。
私は寂しさと疲れを紛らわすために、サッと着替えて外に出る。
長く部屋の中にいたせいか、やけに陽の光が眩しく感じる。
それはもう向こうに姉さんの幻覚を見るほどにだ。
「ん……姉さん?姉さん?!」
刹那、私の身体はまるでバネのように力を各部に貯め、その力を本能のままに射出する。
猛烈な勢いでスタートした私は、さらに魔法【
狙う目標はもちろん姉さんだ。
近づいたことで、姉さんの周りの状況がわかった。
どうやらカフェで、お茶しているようだ。
女と。女と?!
「姉さあああああああああああああああああああああああああん!!!!!!誰よその女あああああああああ!!!!!????」
ズシャアアアアッ!!と、砂埃を立てながら減速していく。
魔法を使ったために、巻き起こる砂も尋常ではないほどだが、魔法子を操作、なんとか最小限に抑え留める。
これでも私は、魔法の才能はある方だ。
急遽私が現れたことで、姉さんは酷く驚いた顔をしている。
そんな彼女に、私は問い詰める。
「で、姉さん、その女は誰ですか?二人目の妹分ですか?」
「誰が妹分よ!私はミクリの友達、キズカ・サティアースよ!」
姉さんにした質問を、隣の女が返した。
女の方を見ると、とてもきれいな人だった。
燃えるような赤色と、高貴な雰囲気をまとう金色がコントラストを描いている髪がたなびいているその姿は、お姫様というほかないだろう。
それにしてもサティアース家って……
「って、あのサティアース家!?」
超名門じゃない!?
何でこんなところに、というかさっき姉さんの友達って……??
ただひたすらに混乱する頭をどうにか抑え、失礼のないように無礼を訂正する。
「知らずに生意気な口聞いてすみません、キズカさん」
「え、ええ。別にいいわよ」
あまり気に障ってないようね、安心。
取り敢えず自己紹介しないとね。
「私はルキシャ・ロウドラスと言います。昔、ミクリ姉さんに助けていただいたことがあるんですよ」
「そうなのね。こんな可愛い子がミクリに懐いてるの、おかしいと思ってたわ」
「ちょっと、どういうこと?おかしくないでしょ!」
ミクリ姉さんがすぐ反論する。
普通は妹分なんているほうが珍しいので、そう思うのもしょうがないと思う。
ここは学校のことでも聞きましょうかね。
「ね、姉さんはどうなんですか、学園では」
「まだ入ってからそんなに日が立ってないけど、楽しいわよ。あとアウラムくんが面白い」
ちょ、ちょっと待った。
「アウラムくん……くん?姉さん、もしかしてその人、男ですか?」
男がそばにいるとは……姉さんの貞操の危機!
今度は私が姉さんを守らねば!
「いやー、男ではあるんだけど……」
「そいつ、戦闘狂のバカ野郎だから心配しなくていいわよ」
そうは言っても男は男だ、目を光らせておくに越したことはないだろう。
一応この場では納得したようにしましょう。
「そうなんですね、なら安心です」
その後も雑談を続け、姉さん成分を十分に摂取してから、帰路についた。
私は姉さんに会って浮かれていたのだろう、後ろを全く振り返ることなく帰っていた。
そのことが災いしたのか。それとも他に理由があったのか。
ガッッッッ!!!と、酷い衝撃が襲ってきたことを知覚した瞬間。
私の意識は虚空へと飛んでいた。
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