第11話
「【
そこら辺に転がっていた石をキズカは無造作につかみ、魔法子をそれにまとわせる。
恐ろしい速度に加速されたそれは、氷の魔弾の意趣返しのごとく、高速で男に肉薄した。
が、男は難なくそれが見えているかのようにヒョイと回避した。
やはり魔法技術だけでなく身のこなしも素人目で相当高いとわかる。
「意気込んでおいてそれだけか?だとしたらお笑いモノだな」
ニヤリと、口に半月を浮かべる男。
キズカは挑発とも取れるその態度に業を煮やしたのかしていないのか、無表情で先程と同じ石弾を放つ。
今度は数え切れないほど多数のだ。
避ける余地も無さそうな弾幕を、男は【氷晶撃】の弾幕を射出、相殺した。
「─────と、思うわよね?」
「クッ!?」
ドライアイスの結晶とぶつかる事があれば、普通の石は砕け散ってハイおしまいだろう。
しかしキズカは男が【氷晶撃】で迎撃することを予見していたので、ぶつかる寸前に【
男に石の弾幕がクリーンヒットする!
「ガハッ!!」
腹にまともに受けたことで、数メートルほど弾き飛ばされた男。
そのまま壁に激突して勢いと意識が停止したようだ。
攻撃を入れた張本人であるキズカは、大量に魔法子を消費したため、肩で息をしている。
しかし、顔には笑みを浮かべており、敵を倒したという達成感がありありと伝わってくる。
「キズカちゃん、お疲れ様」
「ミクリ、アシストありがとね」
「そういえば何も言わな──────
「【射出】」
ザシュッ!!
は?
「え?」
刹那、キズカの胸に鉄の刃が生えてきた。
いや、後ろから刺されているのか!
「敵を倒した後に油断するとは、試合で仕掛けられても知らんぞ。もっとも、お前が今から試合に出ることなど不可能だがなあ!」
「最初からこれを狙っていたのか!?卑怯な!」
つい俺がそう叫ぶと、キズカを刺したその男は不快な笑い声を上げた。
力が抜け、支えを失ったキズカの身体が地に伏せられる。
「卑怯も結構。こいつの家から俺が受けた仕打ちは、卑怯の一言だけじゃ言い表せないほどなんだからなあ!!」
「ミ、ミクリ……」
「キズカちゃん!大丈夫!?」
胸から血を流し、息も絶え絶えになりながらキズカは喋ろうとした。
しかし、すぐに意識が刈り取られてしまったようだ、顔を落としてうつ伏せのようなポーズになった。
口を開く。
「あんた、さっきキズカの家に仕打ちを受けたって言ったよな。なぜそれほどまでに恨みを募らせたんだ」
「アア?俺はな……」
それから男が語った話は、こういうものだった。
男は、サティアース家お抱えの迷宮探索士────平たく言えば、
5ヶ月ほど前、サティアース家現当主コロラス・サティアースに、
しかし、ダンジョンに入ったその瞬間、入り口が大きな音を立てて崩れ落ちた。
余りにもタイミングが良すぎるその出来事に不審がりながらも、奥に進んだ先に待っていたのは、見たことのない魔物だった。
その魔物に仲間を殺された男と一行は、命からがら崩れ落ちた壁を破壊して逃げた、と。
「絶対にあのクソ当主が、必要なくなった俺たちを殺そうとしたに決まっている!!お前もそう思うだろ、なあ!!」
「悪いが、そうは思わない。確かに疑わしいが、確たる証拠もないだろう。それに、何も悪くないキズカをそんな状態で襲うのは、立派な犯罪だろ?」
「うるさい!!この女を殺して、あの家を取り潰すんだ!!テディの恨み、晴らしてやるんだ!!」
俺の弁を男は聞く耳も持たないようだ。
俺と男は鏡合わせのように走り出す。
俺は傷つけられたキズカのため、男は仲間の恨みを晴らすため、一撃を決める。
「【合成】!」
「【射出】!」
放たれた男のナイフが、空中で俺の魔法子にくるまれ、急激に錆びていく。
お察しの通り、鉄を空気……酸素と結合させて酸化鉄にしたのだ。
ナイフを無効化した俺はそのまま男に肉薄、頬に拳の一撃を叩き込んだ!
ただの素人の一撃だが、実は中にキズカが発射していた石を握っているのでそれなりの威力はあるだろう。
「何だ、それは……」
「お前に言う義理はないな」
グラリと身体を倒し、男は力尽きたようだ。
その瞬間、背中の方で大きな歓声が聞こえてきた。
『アウラム選手、一瞬で片をつけた!!』
「え!?アウラム試合してたの!?物語的には見てなきゃまずいじゃん、どーしよう!!」
一人になった廊下に、俺の叫びが虚しく響いたのだった。
……神様、これくらいは見逃してくれたりしない?
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