第10話
円形の闘技場に、まるで太陽が出現したかのような熱気が満ちている。
大量の人が集まった時特有の高揚感を、会場の人間全員──俺も含め、肌で感じていた。
「それでは、新魔祭、開幕です!!!」
そのアナウンスとともに、爆発的な歓声が弾けた。
新魔祭。
新人魔法師……つまり学園に入学したばかりの1年生がクラス代表を決め、トーナメント形式で鎬を削り合うこのグンピーテ魔術学院の目玉イベントである。
俺たちのクラスからは予想通りというかなんというか、アウラムとキズカ、それとコンチ・クローシスという男子生徒が選ばれた。
キズカはなんか出たくないとか言ってたけど、周りが有無を言わさずに選んでしまったからしょうがないだろう。
「1回戦は、Ⅱ組のユチナさん対Ⅸ組のゴルフさんです」
Ⅸ組の人、すごい接待とかしてそうだな。
だがまあ、うちのクラスの出番はまだだとわかったので、一旦控室を訪ねてみよう。
特にキズカはこの前の変な男に襲われたりとかしてないかがすごく心配だ。
俺は席を立ち、廊下に向かおうとする。
その瞬間、少し後ろに座っていた黒いローブ姿の輩と目があった。
男の深海の深部のような昏い目に、背筋が粟立つ。
誰なんだ、いや、なんでこんな目をしているんだ……?
その場から逃げるように急いで廊下へと入った。
「ミクリじゃない。どうしたの、息を切らして」
「ッ!って、何だキズカちゃんか」
「なんだとは何よ」
先程の男のインパクトが離れていなかった俺は、驚きの声を漏らすが、すぐに安堵する。
振り向く俺の目に入ってきたのは、会いに行こうとしていた、キズカ・サティアースその本人だった。
キズカは俺が息を切らしていたことが不審だったようだが、すぐにいつもの表情に戻った。
「何しに来たの、ミクリ。選手じゃないなら、応援席にいたほうが色んな人の魔法が見られて、いいと思うわよ?」
「キズカちゃんが心配で来たのだけど、見た感じ大丈夫そうね」
「私が心配?なんでよ?」
あ、そうじゃん。
キズカとは別れた後にチンピラが声をかけてきたんだ。
まあそれを言うのもなんか過保護っぽいし、適当に誤魔化そうかな。
「それがね、信じられないと思うけど……夢で、キズカちゃんが殺されるのを見たの」
「ハッハ、お嬢ちゃん。予知夢を見るとは面白いな」
「ッ!?誰よアンタ!」
「誰と言われて名乗る襲撃者はいないだろう。まあ、お前……正確には、お前の家に憎悪をつのらせた悪魔と言ったところだ」
そう自分を大層大きく語ったヤツは、先程俺と目が合った黒フードローブの男だった。
突然のことに困惑を感じながらも俺はどこか納得していた。
それは、ナンパしようとしていたチンピラの最後の捨て台詞である。
「さて、お前にはあのクソ家に復讐するための道具になってもらう。大人しくしろッ!!」
その瞬間、魔法発動時特有の魔法子の煌めきが空間にほとばしった。
それにより出来た白い煙を吐き出す結晶が、キズカに向けて放たれる。
「【氷晶撃】!?使えるものがいたなんて……」
俺は男が使った魔法を観察し分析したが、それを紐解いてもわかるのは男が相当な手練であるということだけ。
【氷晶撃】は、氷とは名につくが、実際は魔法子が二酸化炭素を固め、ドライアイスにして放つという魔法である。
単体ではあまり使い勝手がいいと言えない魔法だが、連射できると、放たれる煙によって凶悪性が増す。
そんな弾丸を男は数十発、一度の魔法で作り出したのだ。
相当な技、魔法子操作力である。
「使いたくはなかったのだけど……【
勢いよくキズカの命を貫こうとする氷の弾丸だが、キズカの前で不自然なほどに減速した。
キズカの豊富な魔法子、そしてその操作力から放たれるのは、【
豊富な魔法子で相手の魔法を受け止め、卓越した操作力で威力を受け流すこの魔法は、キズカが魔法を隠している主な原因である。
「ッ!!」
「お前の魔法は知っているに決まっているだろう!対策していないとでも思ったか!」
【氷晶撃】の弾丸はドライアイスなので、煙を吐いている。
その煙に隠した、大量の第二撃がキズカを襲う!
【
つまり後2回。
しかもこの弾幕は先程の第一撃よりも多く、一度に減速できる量を明らかに超えている。
つまりキズカだけなら、【
だが、
「【合成】!!」
キズカにならバレてもいいだろう。彼女は同じような境遇だからな。
俺の魔法子の輝きが、いくつかの氷の弾丸を包む。
その瞬間、氷の弾丸は液体となって消え去った。
「ナイスミクリ!【
あれ、なんか困惑薄くない?もっと何か言うと思ってたんだけど。
戦闘中だから流すけどさ。
「さあ、今度はこちらの番よ」
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