第閑話
「は?え?」
私の間の抜けた声が文字通り木霊する。
それほどまでに、今のは衝撃的な魔法だった。
有り得ないでしょ、一撃で相手を消し去る魔法なんて……。
@
魔法界名門貴族のサティアース家の次女、キズカ・サティアース……それが私だ。
私は自分で言うのもなんだけど顔は整っているし、魔法の操作も上手いし、生まれの身分も高い。
だからこそというか、そんな私は子供の頃から嫌という程周りからチヤホヤ……もとい、賞賛と羨望の目を貴族世界で受けてきた。
神童だ、天才だ、救世主だ。
まだ賞賛の方は良かったが、羨望の目が酷かった。
耐えきれないほどの悪意ある目線に晒され、「どうやったらそこまで魔法が使える
のか」、と聞かれたことは数えきれない……。
そんな人生を幼年期に送った私は、自衛手段としての居丈高な態度を編み出し、それを学園生活でも続けていた。
まあ入学式の男──アウリム?アロム?アラーム?みたいな名前の奴ね──騒動ではかなりいい感じに撃退できたし、この態度もなかなか悪くはないと再確認中ってことよ。
「はあ、この訓練も楽ね。私の魔法も使わなくて済みそうだわ」
私が落としたつぶやきは、幸いにも周りの女の子たちには聞こえないようだった。
実をいうと私は、とある体質を持っている。
それは、非活性状態の魔法子やを見ることができるというものだ。
これをフル活用すると、相手の動きや魔法を事前に予測したり、または敵を探知することにも使える。
しかし、今回の訓練では周りの女の子たちが大体やってくれたため、使わなそうと言ったのだ。
女の子たちが魔獣を倒すたびに褒めて!みたいな顔でこっち見てくるのが少し心に来るけどね。
「キズカ様、昨日おしゃれなカフェを見つけたんですよ」
「あら、そうなの。気になるわねー」
そんなふうに考えながらも、表面では女の子たちと談笑している時に、それは起こった。
「────ッ!?」
突如私の目に、魔法子が見えた。
そこまではいい。
そこで起こった現象が意味がわからない。
活性状態の魔法子が一瞬で煌めき、近くに居た非活性状態の魔法子……、つまるところ魔獣を消し飛ばしたのだ。
私は今までの常識が通用しないその魔法を使った主を調べるために、急いで森を駆け抜ける。
周りの女の子たちが困惑してるけど無視よ無視。
@
到着した私の目に飛び込んできたのは、一人の女の子だった。
青色の髪がふわりとたなびき、差し色のように入っている白や紫が、なんともきれいだ。
私に負けず劣らずの美少女が、どうやら先程の魔法を使ったようにそこに佇んでいた。
というかミクリちゃんである。
アウラム?の隣に座っていたあの子だ。
思わず息を呑んで立ち尽くしかけた私だったが、目を向けられそうになったことを魔法子の動きで察した。サッと木の後ろに隠れて、様子をうかがう。
「はぁー、やっぱり制御キッツいな」
彼女が漏らす独り言がこちらに流れてくる。
そりゃそうでしょうよ、消し飛ばす魔法なんて高度にもほどがある、というかどう魔法子を操作したらそうなるのよ!
「アウラムに見られたりとかしてねーよな。あいつ戦闘狂っぽいし。サ◯ヤ人的な感じでバトル挑まれそうだわ」
なんか、見た目の印象にそぐわない口調ね。
まるで男があの中に入っているかみたいな感じだわ。
あの態度は作っていたのかしら?
後最後のセリフはよくわからないわね……。
「とりあえず、こいつは放置してアウラムのところに戻るか。長くいなくなりすぎると不審がられるしなー」
そう言いながら移動する彼女。
私もミクリちゃんの魔法のことをもう少し調べたいと思ったので、気配を消しつつ付いていくことにした。
……私の魔法を使えば、検証できるかもしれないわね。
でも流石にやめておきましょうか、良心もあの子も痛めてしまうからね。
「って、何やってるのーーーーーー!?!?」
刹那、彼女の叫びが聞こえてきた。
私は咄嗟に振り向くと、そこには、例の男……アウラム?がいた。そして、風魔法で浮きながら赤ちゃんのように浮いている教官!
その異様な光景に、私もあの子と同じく叫びかける。
普通の人なら突っ込むでしょう、こんなの。
「ああ、ミクリ。宝箱あったかい?」
「いやそこじゃないでしょ!」
同意よ、あのときも思ったけど常識ってものを知らないの、この男は。
しかもミクリちゃんを親しげに呼んでるし。
いつ距離を詰めたのかしら。
そこを置いておいても、教官があんなことをするなんて感化されちゃったのかしら、アウラムに。
……私はその不可解な光景をとりあえず放置して、元の女の子たちの所へ帰って行ったのだった。
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