第6話
アウラムが一転攻勢へと転じた瞬間、それは起こった。
何故か教官が吹っ飛んでいたのだ。
それをやった元凶と思しきアウラムは、平然と屹立した姿勢で、口を開く。
「もう終わりですか、拍子抜けですね」
「ハッ、一撃入れただけで勝った気になってんじゃねえぞ、小僧」
そうは言っているが、明らかに今の一撃は重そうだ。
何が起こったんだろうか。
そう思っていると、アウラムが解説してくれた。
「土を操作して、あなたの足元を緩めた上で圧縮した土弾を放ちました。一応手加減はしておきましたが、これ以上やると保証もできませんよ」
「舐めるなよ!」
男は完全に教官と生徒という自身含む立場を忘れた冒険者の顔、目になった。
そのまま攻撃……いや、衝撃を受けた腹を擦りながら、もう一度剣を構え直す。
「喰らいやがれ!【風刃撃】!」
男の淡い白い色をした魔法子が剣を包み、空気の回転が剣を軸に文字通り巻き起こる。
袈裟斬りに振り下ろされた風の剣は、その素早い技も虚しく空を切る。
アウラムの身のこなしは、素人目でもかなり鍛えられているのがわかるほど美しい回避だった。
どうやらアウラムのチートは極められた土魔法だけでなく、魔法子をほとんど漏らさずに高速で操作する力もらしい。
いつの間にか彼の手の中に土で打たれた剣(今のは土と鎚をかけたギャグではないよ)が握られていた。
それを風の剣の横っ腹に打ち付け、弾き飛ばす!
「終わりです」
「魔法だけじゃなく剣技も強いのか……正真正銘の化け物だな」
唯一の武器を彼方へ放り出された教官の男は両の手をホールドアップして降参の意を示した。
そして苦笑交じりにアウラムの実力を褒め称える。
「俺もまだまだ成長できそうだな、一体どうすればここまで強くなれるんだ……?」
「……それは、あまり言いたくありませんね」
「おっと、そりゃ失礼したな」
地雷っぽいな、過去の話は。
まあ俺は知ってるんだけど、読んだから。
そんな事を考え、アホな男二人に集中していたのがまずかった。
横から猛スピードで俺に迫りくる熊型の魔獣が、爪を振り抜いているのを見た。
刹那の間に詰められる彼我の距離。
とっさにアウラムに助けを求めようとするが、彼は教官と談笑しているようにしか見えない。
つまり頼れない。ここまで思考すること1秒。
よって俺────私は、なるべく使いたくなかったアレを使うことにする。
幸い誰も見てなさそうだしな。
「【合成】」
瞬間、私の魔法子が煌めきながら熊型魔獣を覆う。
そして、バシャリと音を立てて液体が土に落ちたのだった。
@
俺はふと勉強の合間に思ったことがあった。
─────唯一使える【合成】魔法はどうやって物質を合成しているのだろう、
というものだ。
「へー、合成する対象を魔法子が結合を緩めて、他の対象と最もいい感じにくっつけるのか」
どうやら、そうやって合成しているらしい。
ちなみにこれは余談なのだが、魔法子というのは、人間や亜人、魔族、魔獣の心臓から無意識に生み出される粒子であり、本人の意識によって活性化して操作できるようになる性質を持っている。この性質を利用して様々な現象を起こすのが魔法というわけだ。
魔法子の動きには個人それぞれに癖がありそれが使える魔法の種類となる。
余談はこれくらいにして、合成の話に戻ろう。
対象に取るものはなんでもいいらしく、有機物、無機物問わず対象に取れるらしい。
珍しい感じだ、ねって……。
ん……?
生物にかけられる……。
対象物はなんでもいい……。
「ハッ!これ、最強じゃね!?」
地球で化学を学んでいたのが役に立つ!
そう、相手が生物だった場合、身体に炭素Cが含まれているだろう。
そして空気中には酸素O₂があるわけだ。
そいつらを【合成】してやれば、相手の身体は二酸化炭素CO₂になるのではないだろうか。
何なら生物には水分が含まれているから、二酸化炭素をそれとくっつければ、炭酸水ができる。
【合成】くん、今まで散々ハズレとか言ってゴメンな。
まさかお前が敵を一撃で炭酸水に変えるとかいうポテンシャルを秘めてるとは。
勉強していたから気づけたことだ、ありがとう勉強。
「ただ、人間にやるのはちょっとな……」
流石にたとえ異世界でも倫理観は保たないと、正気でなくなりそうだ。
やるとしても動物か、魔獣にしよう。
あと人に見せるのもやめよう。
@
炭酸水になった魔獣はとりあえず放置して、アウラムの方に行く。
そこでは、教官がハイハイしながら風魔法で宙に浮いていた。
「何やってるのーーーーーー!?!?」
「いや、修行に決まってんだろ、嬢ちゃん」
「ああ、ミクリ。宝箱あったかい?」
「いやそこじゃないでしょ!あとなにその修業!?」
「ああ、これは俺が子供の頃に見た風魔法の修行方法だよ」
地底の魔族怖えー……。
アウラムも異世界モノ主人公あるあるの非常識だったの忘れてた俺だった。
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